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行方不明(16)

カフェから見える海は波が高だって見え、サーフィンをする若者が点になって見えた。

 「オーストラリアって本当に大きい国ねえ」美佐子が日差しの強い昼間の太陽を手をかざしてさえぎりながら海を見て言った。

 ウエートレスが持ってきたフィッシュ・アンド・チップスは皿に盛り上がっており、その量に江藤夫妻は圧倒されたようだった。「フィッシュ・アンド・チップスって何かと思ったら、魚のてんぷらのことだったのか」揚げたてのフィッシュ・アンド・チップスをフォークで刺して口にほおばりながら、武雄は言った。「おしょうゆがほしいわね。」と、美佐子が言った。確かに味付けが塩とレモン汁だけは日本人には物足りなく感じられるのだろう。

 その日の午後は船で沖に出て、釣りをして終わった。夜は観光するところもなく、静子は江藤夫妻から解放されて、一人モーテルの部屋に引っ込んだ。モーテルの小さな部屋ではすることもなく、結局テレビを見てすごした。翌日は、朝早く、江藤夫妻を連れて、海辺を歩いた。さらさらの砂は朝早いせいか昼間のように焼きついてはおらず、足に心地よく感じられた。足を水につけると透き通って見え、海水が押し寄せては引いていくたびに足元の砂が崩れていた。時折貝殻を見つけては美佐子は拾っていた。

 帰りに森を車で走っているときだった。夢の中の森と重なって見えたのは。静子は運転手にこの近くに湖があるか聞いた。

「この近くにはありませんよ。もっと北のほうに行くとありますがね」

「その近くを通ってもらうことできないかしら」

「とんでもない。そこに行くにはまた半日かかりますよ」

「なんていう所?」

「ブライトっていう所ですよ」

ブライト。静子はつぶやいて、今度そこに行ってみようと思った。

遠回りをしたため、メルボルンに着いたときは夕暮れだった。時計を見ると9時に近かった。江藤夫妻をホテルにおろした後、静子はすぐにうちに帰った。

 次の休日に、静子は久しぶりに姑のうちに足を運んだ。すると、珍しく先客がいた。姑は静子の来訪を喜んでくれ、そののっぽで金髪の長い髪をポニーテールをした先客の男を紹介してくれた。

「静子、彼のこと覚えているでしょ?トニーのいとこに当たるライアンよ。確かあなたの結婚式にも来たはずよ」

ライアンの顔を見ても、会った覚えはなかった。

「やあ、久しぶりだね」
ライアンは屈託のない笑顔を静子に向けた。

「お久しぶりです」
静子はとまどいながらも挨拶した。

「トニーがいなくなってもう1年以上になるんだって?大変だね」と気の毒そうに言った。

「ライアンさん、以前トニーと親しかったんですか」

「まあね。年が同じくらいだったから子供のときはよくいききしたものだけど、彼が日本に行ってから疎遠になってしまったけれどね」

「それじゃあ、トニーが行ったことのある湖のある森って知らない?」

「え、どうして?」ライアンは不審げにきいた。

一笑に付される危険を覚悟で言った。

「実は、前にお姑さんにも言ったことがあるんだけど、よくトニーの夢を見るの。その夢ではトニーは森の中にいて私においでおいでをするので、もしかしたらトニーは殺されて森の中に埋められているのではないかと、思い始めたの。それで、もしかしてトニーが行った事がある森かもしれないと思って」

ライアンは少し揶揄するような面持ちで言った。

「へえー。夢を見るの?トニーの行ったことのある森ねえ。あまり記憶にないな」

「実は、今度ブライトに行ってみようと思うの。そこに湖があるそうだから」

姑は「あんた、離婚した後、暇ができたんだろ。連れて行ってやりなさいよ」とライアンに言った。

「そうだな。いつ行くつもり?」

「日にちは決めていないんだけど、できるだけ早く行きたいと思っているの」

「じゃあ、次の週末はどうかな、時間があるけど。ブライトって遠いから片道4時間かかるよ。日帰りするのはちょっと無理だから一泊する覚悟で行かなくっちゃ。」

「それじゃあ、来週の週末お願いします。モーテルの予約は私がしておきますから」

話はとんとん拍子で決まった。

その後、姑とライアンと取り留めのない話をして帰った。

次の週末は仕事を入れないでおいた。一週間はあっという間にすぎた。

著作権所有者:久保田満里子

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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