オーストラリアの大学生諸君(2)
更新日: 2010-09-09
試験勉強のため、6月はおでかけはできるだけ控えることにした。でも毎日朝から晩まで机の前にかじりついているのも疲れる。勿論バイトはそのまま続けているのだが、金曜日の夜だけは友達と羽をのばすことにした。いつもの高校からの仲良し4人組で安いカフェテリアに集まって人のうわさ話に花を咲かせ、それからナイトクラブに行って、ワインを飲み、踊り狂うという過ごし方。これは高校からあまりパターンが変わっていない。今晩は仲間の一人、リズにボーイフレンドができたというので、話が盛り上がった。
「ねえ、ねえ。どんな彼?今度会わせてよ」とエミリーがリズにねだっている。
「まあね。マークって言うだけれど、かっこいいんだ。バンドでベースを弾いてるんだ」
「へえ、どこで会ったの?」
「クラブでだよ。そこでバンドの演奏をしていたので、演奏が終わった後声かけたら、意気投合しちゃってさあ。その日は朝帰り」
「へえ~。やるじゃん。今度そのクラブに一緒に行って紹介してよ」
「うん。いいよ。ところで、ミッシェル、あんたの方は、どうなってんのよ」
「う~ん。私の彼はさあ、子供がいるからね、ちょっと難しいよ。別れた奥さんには未練はないみたいだけど、子供は手放したくないみたいで、今どちらが養育するかで、奥さんと裁判中なんだよ。普通はその子、お母さんと暮らしているんだけど、2週間に一回は彼が面倒を見ることになっているからね。その子、私を目の敵にしているみたい。私の言うこと、ちっとも聞かないんだもの。彼が見ていないところで私をにらみつけたり、いたずらしたりでいやになっちゃうよ」「そんな人と付き合うの、やめなよ」と私が言うと、ミシェルは暗い顔になって、
「そうは言ってもね、あたし、彼のことを好きなんだ」と言う。
「それじゃあ、仕方ないね。その子を手なずけなければ」と私は言った。
こんなたわいもない会話をしていたのだが、後で大変なことが起こった。
それは文化研究の試験が終わって、後哲学の試験だけがあるという日だった。だから正確に言うと6月23日の夜になる。哲学の試験の準備を始めようかと思っていた矢先に、ミッシェルから電話がかかってきた。電話の向こうのミッシェルはヒステリック気味だった。一体なんで夜遅くミッシェルが電話してきたのか理解するのに時間がかかった。
「ミッシェル、ちょっと落ち着いて話してよ」
泣きじゃくっているミッシェルを電話を通してなだめすかすのは大変だった。
「彼が、彼が、死んじゃった」と言うのが聞き取れた。
「彼って、あんたが付き合っているフランクのこと?」
「そうよ。彼が死んじゃったのよ」
「今うちにいるの?だったら今からそちらに行くから待ってて。」
とるものもとりあえず、ハンドバックを片手にうちを飛び出して、ミッシェルのうちに向かった。うちの玄関のドアを閉めるとき、ママが「こんな時間にどこ行くの?」と言っているのが聞こえたが、無視した。
ミッシェルのうちは電車で2駅のところにあり、私のうちから遠くない。でも、夜9時を過ぎていたから、電車の本数は極端に少なくて、ミッシェルのうちに行くのに40分もかかった。
ミッシェルは両親と一緒に暮しているのだが、両親は先週から夫婦二人で2週間イギリスに遊びに行ってしまって、うちにはミッシェルしかいなかった。
「どうしたっていうの?」と言うと、ミッシェルは泣きじゃくり始めた。私はミッシェルの肩を抱いて、彼女が泣き止むまで待った。
著作権所有者:久保田満里子
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