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EMR(4)

シェリルと挨拶を交わして、理沙のマンションに戻ると、三人はテーブルを囲んで座った。
 省吾がまず口を切った。
「確かにシェリルの言うとおり、そのハリーとか言う男にとって、この耳栓もどきが大切な物だったら、いつか取りに来るんじゃないか?まあ、それまで待つしかないね」
「それはそうだけど、もし大切でないものだったら、このまま私の手元に残しておかなければいけないってことね?」
「気味が悪いんだったら、僕が預かってもいいよ」
「そうしてもらえると助かるけれど、ハリーが取りに来た時に、返せなくなるわね」
「もう一度、実験してみないか?本当に、これは人の心の声を聞ける機械なのか」
「そうね。そうしてみましょう。まず、私が耳栓もどきをつけて、省吾の心を読むことにするわ」と理沙は言い、耳栓もどきを耳につけて、省吾の腕をとった。
 神妙に二人に見守られながら、理沙が「聞こえるわ。省吾の声が」と、言ったかと思うと、急に顔を赤らめ、耳栓もどきをはずした。省吾がバツの悪い顔をしたのを見て、エイミーは狐につままれた思いで二人の顔を見比べたが、何となく、何も聞かないほうがいいような空気を感じ取ったのか、わざと明るい声で言った。
「今度は、私の番よ。貸して」と言うと、耳栓もどきをつけて、理沙の腕に触れた。すると、理沙は口を閉じているのだが、エイミーには彼女の声がはっきりと聞こえてきた。
「省吾が私のことをそんな目で見ていたなんて、今まで気がつかなかったわ。気安い男友達くらいにしか思っていなかったのに」
 エイミーは、突然聞いてはいけない他人の秘密にふれたような居心地の悪い思いに陥り、すぐに耳栓もどきをはずした。理沙も省吾もバツが悪そうに黙っている。
 変な雰囲気になったのを察知したエイミーは、
「私、もう帰るわ」と椅子から立ち上がると、省吾も彼女に釣られて立ち上がって、
「じゃあ、僕も帰るよ」と言い出した。理沙は二人を引き止める気にはなれなくて、そのままドアの外まで送り出した。
二人が帰って独りになった理沙は、テーブルの上にある耳栓もどきを眺めながら、途方にくれていた。
「省吾が私を女としてみているなんて、ちっとも気がつかなかったわ。私は省吾を男としてみたことが全然なかったし、これからもそんな気持ちにはなれないわ。これから彼とどう付き合っていったらいいのかしら」と言うと、ため息をついた。

 翌日は日曜日だったこともあって、理沙は、目覚まし時計をかけないで寝た。カーテンの間から漏れる日の光に目が覚めて、枕元の目覚まし時計を見ると、もう十時になっていた。夕べはなかなか眠れなかった。あの不気味な耳栓もどきのこともあったし、省吾とのことも考えていると、夜通し目がさえて、明け方になってうつらうつらしたのだ。
 ゆっくり起きて、顔を洗ってトースト二枚とハムエッグを食べていると、ドアのベルが鳴った。一瞬、省吾かなと思ったが、彼だって自分以上にばつの悪い思いをしているだろうから、こんなに朝早く来るとは思えなかった。
 ドアの覗き穴から見ると、見知らぬ男が立っていた。


著作権所有者:久保田満里子

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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