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私のソウルメイト(17)

「ところで、来週の水曜日は私の引越しだからアパートに来てよね。さびしいけれど二人で引越し祝いのパーティーをやろうよ」
「いつになったら、ロベルトにアパートのこと教えるの?」
「多分死ぬまで教えないと思うわ。でも、ちゃんと先日弁護士に会って、遺言を書いておいたから大丈夫よ。私が死んだらアパートは売って、ロベルトとエミリーとフランクの三人で、お金を分ければいいと思っているのよ。それからやっぱりスーパーはやめることにしたわ。だって、スーパーでこのまま働いていたらせっかく買ったアパートですごす時間なんて全然ないじゃない。だから、架空の会社に勤め始めたって言って、給料は私の銀行口座にふりこんでいけば、ばれないと思うの」
「よく、考えたわね」
「そう、そういうことって、私、結構抜け目がないのよ。郵便局で私書箱も作ったから、アパートに関する郵便物は全部私書箱に送るように手配したのよ」
「それで、アパートでどう過ごすつもり?」
「それは、これからのお楽しみ。多分すぐに退屈すると思うけれど、しばらく自由を満喫して、それからまたやることを考えるわ」
「自由を満喫か。最近は、自由もお金で買い取るものなのよね。ダイアナが生まれたときにね、私、自由はお金を出して買うものだと思い知ったわ。だってその頃そんなに気軽に子守を頼めるような人がいなかったから、誰かに頼むとなれば、1時間いくらと子守代を払わなければならなかったしね」
「そうね、私たちが知り合ったのは、エミリーが保育園に行くようになってからだもんね。それじゃあ、また来週ね。火曜日の12時にアパートに来てよ。引越しパーティーをしよう」
「それじゃあ、また来週」
私たちは、カフェで別れた。
 次の日、アーロンもダイアナも出かけた後、いつものように、メールを調べた。
またサイモンからメールが入っていた。
「BTより連絡あり。今度日本からのロボット購入により、説明書の英訳を作る必要があり、週2日のパートの翻訳者が必要となったそうだ。興味があれば、連絡されたし」
BTといえば、ロビンの会社ではないか。またロビンに会えると思うと、胸がどきどきし始めたのを感じ、すぐに、返事を出した。
「引き受けます。雇用の条件はどうなっていますか」
すぐに返事が来た。
「BTに直接連絡して、聞いてくれ」
また、ロビンとのつながりができたと思うと嬉しくなって、私は回りに誰もいないことを確かめて、「ばんざ~い」と両手を挙げて、飛びあがった。
もう縁が切れたかと思うと、またつながりができ、つながりがきれたかと思うと、またそれも復活して、きっとロビンと私はソウルメイトに違いと、私は薄れ掛けていた自信をまた取り戻し始めていた。
サイモンの教えてくれたBT商事の人事課に、メールを打った。
「パートの翻訳者が必要だと聞きましたが、その条件を教えてください」
すぐに返事が来た。
「勤務は週二日で月曜日と水曜日。時給35ドルで、週15時間。年金積み立てとして給料の9%を支給。年休8日。長期勤務特別休暇は勤務期間が10年を超えたところで3ヶ月です」
なかなかいい条件だった。その晩アーロンにパートタイムの話をしたら、すぐに賛成してくれた。
BTに勤めると言っても、ロビンと会える保証はない。しかし、会える可能性は大いにある。そう思うと、浮き浮きした。
早速次の日に、ルンルン気分で履歴書を持ってBTの人事課を訪れた。ロビンに会えるかもしれないと、会社の建物に入って、きょときょとしながら、人事課に行ったが、ロビンには会えなかった。人事課は3階にあるので、23階にいるロビンは文字通り、雲の上の人だった。
人事課の人は、すぐに、勤務の手続きをしてくれた。私は総務課に一応席を置くことになり、総務課に連れて行かれた。人事課の人が、私の直属の上司になる総務課の課長のデイビッド・ミルトンに紹介してくれた。デイビッドは、鼻も目も口も全部大作りの人で、体もズボンから肉がはみ出しそうな肥満体だった。しかし、陽気な人らしく、笑顔で握手をしてくれた。それから部屋の片隅にある机を与えられた。この机は、もう一人のパートと共有するものだそうで、月水が私、火木金と、もう一人のパートが使うということだった。机の上には、コンピューターが一台あるだけだった。机の傍にあるファイリングキャビネットに、必要書類を入れて置くように言われた。来週から勤務開始ということになり、その日は、手続きだけを済ませて帰った。これからロビンに会える可能性のあることに、胸をわくわくさせながら。

著作権所有者:久保田満里子



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2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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