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私のソウルメイト(35)

ご城下に行って、殿様の行列が通るのを待ちました。「下にい、下に」と言う声が聞こえてくると、道行く人々は道脇に正座して座り、ひれ伏しました。私も、他の人に習って道脇に座りひれ伏しましたが、お殿様の籠が通るとき、直訴状を渡さなければいけません。そのタイミングがうまくいくかどうか、不安で胸が押しつぶされそうでした。行列の先端が通り過ぎ、お殿様の籠が通るのを察知した私は、道脇から躍り出ました。直訴状を右手で大きく掲げながら
「お願い申し上げます」と大きな声を放ちました。すぐに護衛の侍に行く手を阻まれましたが、私が武器も持たない農民で、直訴のために躍り出たことが分かると、護衛の侍は、私から直訴状を取り上げ、私を押さえつけたまま、お殿様の籠の傍にひざまづき、「申し上げます。直訴状をもつ百姓が飛び込んでまいりました」と言うと、「さようか」と一言殿様の声が聞こえ、お供の侍によって籠は開けられ、お殿様はその直訴状を受け取り、また籠の扉は無言のうちに閉められました。そして、そのままお殿様の行列は何事もなかったように、通り過ぎて行ったのです。その後私は護衛の侍に引っ立てられて、牢屋に入れられました。寒くて暗い狭い牢屋には他にも5人入っており、込んでいました。その晩寒さと不安でぶるぶる両膝を抱えて震えながら、直訴状の願いが聞き入れられるように祈るような気持ちで過ごしました。その翌日、私は牢屋から引っ立てられ、後ろ手で縛られ、裸馬に乗せられました。そして、「謀反者」と書かれた札を首からかけさせられ、町中を引き回されました。道行く人々は馬が通る道を空け、私を恐れるように見上げていました。そして、刑場に連れて行かれ、筵の上に座らせられました。刑場の囲いの外をたくさんの見物人がこちらを見ていました。私は、恐ろしさに震え上がっていました。そして、首に刀があたったのを感じたとき「お久!」とお久の名前を心の中で呼んでいました。死の瞬間、私はお久のことだけが気がかりだったのです。そして、私の首ははね落とされ、私は息が絶えたのです。私の魂は、息が絶えた瞬間、体から離れ、お久のもとに飛んでいきました。お久は、井戸の水を汲み上げていました。その物悲しそうな風情に私は胸が詰り、一生懸命「私はここにいるよ」と伝えようとしましたが、お久は全然気がついてくれません。私は何度もお久に話しかけましたが、体のない私の言葉はお久には通じないことに気づき、あきらめて、天に昇っていきました」
私が話し終えると、マクナマラ先生の声が聞こえてきた。
「それで、あなたの直訴状は、無駄ではなかったのですか?」
「直訴状の結果は、うまくいったようです。村の衆の安堵した顔が見えます」と答えた。
「それでは、1,2,3と言うと、あなたは目が覚めます。1,2,3」
マクナマラ先生の声で、私は段々目覚めていった。
「この度の人生はどうでしたか?」とマクナマラ先生から聞かれたが、首打ちになったショックから、なかなか立ち直れなかった。ロビンに関して分かったのことは、その人生では、ロビンは私にとって最も大切な人だったということだ。
 マクナマラ先生から、このまままた来週も退行催眠を受けたいか聞かれたが、この前のような積極さはなくなっていた。
「少し、お休みさせてもらいます。また、必要を感じたら、お願いします」と言って、退行催眠のセッションは一旦打ち切ることにした。
 その後、京子のアパートに行くと、京子はいつものように待っていた。
二人でコーヒーを飲みながら、私は今日体験したことを話した。
「あなたと私はやはり、ソウルメイトみたいよ。いつも私の人生にあなたが出てくるわ。そして、アーロンとロビン。この二人も私と夫婦関係になることが多いみたい」
「そうみたいね。今の人生と、その前の人生では、アーロンとあなたは夫婦ですもんね。ロビンとの関係は、ころころ変わるみたいだけど」
「そう。でも、ロビンにはいつも執着を残しているのよね。今生では、その執着に決着をつけるべきなのかもしれないなと思うんだけど」
私はロビンを避けてきていたが、どうしても会って話さなければいけないという衝動がつきあがってきた。
「私、どうしても一度ロビンに会って、話したいんだけど、どうすればいいと思う?」
「先日は私が助けてもらったから、今度はお礼に私が一肌脱ぐ番ね」と京子はまたいつもの茶目っ気を出して言った。
「一番手っ取り早いのは、彼の家に行って、彼の帰りを待ち伏せることね」
「それだと、彼が何時に帰るか調べないといけないし、夜出かけるとなると、アーロンにどう言ってうちをでるか考えなかればいけないわ」
「彼がうちに帰る時間は、社長の秘書から聞き出せないの?」
「そんなことしたら、変だと思われるわよ」
「夜出かけることは何とかなると思うわよ。また二人で一泊旅行に行くなんて言えば、いいことだし」
「そうね。じゃあ、二人で一泊旅行に出かけるっていうことにして、ロビンが帰るのを待ち伏せするっていうことにしましょうか?」
「そうね。ただその待ち伏せする日に彼はどこかに出張だったってことになったら、我々の苦労も水の泡になっちゃうわね」
「そうすると、やはり何かの理由をこじつけて、社長秘書から聞き出すか、本人に聞きだす以外ないわね」と私は、思案顔で言った。

著作権所有者:久保田満里子

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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