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私のソウルメイト(38)

 京子のアパートに帰る道々、これはロビンと会って話し合うなんていう状況ではなくなってきたなと、思い始めた。案の定京子は
「もとこさん、悪いけど、私明日はあなたとロビンが会うのに、お付き合いできないわ」と言い始めた。彼女の言うことはもっともである。
「うん。こういう状況だと、あなたも人のことに構っている場合ではないもんね。私はロビンのことは自分の問題だから、自分で解決するから心配しないで」と言ったものの、心細さはぬぐいきれなかった。
「ケビンのことは調査報告書が来たところで対策を練りましょ。大丈夫よ。心配しないで」と言うと、
「あいつの弱みをこちらもつかめればいいんだけど」と心もとなさそうだった。
そして
「明日は私、アパートに泊まる気だったけど、もうその気がしなくなっちゃったわ。アパートの合鍵、貸してあげるから、明日の晩は自由に使って」と言って、合鍵を貸してくれた。
 その日は京子を私の車でうちに送っていった。
 私はその晩京子がアパートに泊まらないのなら、金曜日はロビンに会った後、自分のうちに帰ったほうがいいような気がしてきた。アーロンも出張でうちにいないし、ダイアナもエミリーのうちに泊まるようなことを言っていた。京子がうちにいることにしたのなら、ダイアナに京子が私と一緒でないことはすぐばれてしまう。だが、ダイアナにはうちにいたと言っても、わからないのだから、どちらでもいいような気もする。まあ、その場で決めればいいと、くよくよ思い悩むことはやめた。
 金曜日が来て、朝からそわそわしてしまった。アーロンもダイアナも出かけた後、今晩着て行く服の物色を始めた。鏡の前で色々な服を出しては、顔に当ててみて、慎重に選んだ。結局黒い膝下までの丈のワンピースを着て胸元をきらきら光るネックレスをつけることにした。これに黒いショールを羽織れば、結構シックに見える。
 8時の待ち合わせの時間に15分も早くついたので、車の中で15分CDを聞いて、時間をつぶした。8時きっかりに駐車場を出て、「すき焼きハウス」に行くと、ロビンは先に来ていた。
 「すみません。おくれっちゃって」と頭を下げながら行くと
「いや、僕も今来たところだよ。何を飲む?」と聞かれた。
「今日は車で来たので、ジュースにしておきます」と言うと
「僕も車で来たけど、ワインが飲みたいな。そうだ。日本で飲んだ酒、結構おいしかったから、日本酒にしようかな」と言って、通りかかったウエイトレスに注文した。ここはさすがに高級日本料理店だけあって、ウエイトレスは皆着物を着ている。私がよく行く「みっちゃん」は、中国人の経営で、ウエートレスも中国人ばかりなのだが、ここのウエートレスは皆日本人のようであった。
「僕は日本料理のことは分からないけど、このシェフのお勧めコースというのでいいかな」と言うので、「勿論それで結構です」と言うと、それを二人分注文してくれた。日本酒が運ばれてきて、二人で乾杯をした。
ロビンはお酒を一気に飲んで、おちょこをテーブルの上に置くと、
「君の話ってなんだい?」と聞いてきた。
私は素面でこんな話をするのは、ためらわれたが、このチャンスを逃したら、もう2度とロビンに自分の思いを伝える機会はないと思い、思い切って言った。
「実は、私はあなたを初めて見た時から、あなたの存在が気になって仕方なかったんです」
ロビンがどう反応するか、恐ろしく、下を向いて言ったが、その後意を決して顔を上げると、ロビンがニコニコしているのを見て、ほっと安心をした。
「それは、光栄だね」と言ってくれた。
「失礼ですが、ロビンさんは、一度も結婚されたことはないのですか?」
ロビンの目が急に宙に浮いた。悪いことを聞いてしまったかなと後悔の念が沸き起こってきたとき
「一度結婚したことがあるよ」と言う答えが戻ってきた。
「そうですか。離婚されたんですか?」
オーストラリアでは3組に1組が離婚をすると言われているので、当然の質問だった。
「いや、そうじゃない。子供も二人いたけれど、交通事故でいっぺんに家族を失ったんだ」
私は一瞬息を呑んでしまった。
「いや、君に同情してもらう必要はないよ」とロビンは言った。
私は彼のこういう優しい気遣いに心を惹かれたのだと、改めて思った。
「なんと言ってよいのか分かりません」素直な気持ちを言った。
「それで、君は僕が好きだというために、僕を呼び出したの?」
また優しい目に戻ったロビンが聞いてきた。

著作権所有者:久保田満里子

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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