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ハンギングロック:後藤の失踪(15)

 今は、観光地になっているハンギング・ロックは柵で囲まれていたが、柵の中の駐車場に車を停めると、ミランダたちを先頭に立たせて、ハンギング・ロックに登る道に向かった。山の麓に出ている道しるべを見ると、なだらかな坂道と、急な階段の道と二つに分かれている。
「どちらに行けばいいか分かるかね?」と警官が不安そうに聞くと
「私たちが行った時は、分かれ道なんてありませんでした。この階段の道は後で作られたものだと思います。だからこちらの方の道から行きます」
 長いスカートをひきずって二人は坂道を歩きにくそうだったが、ゆっくり歩き始めた。警官が二人の後についていきながら時折麓の景色を見た。警官の目に水平線まで緑の潅木で囲まれ、家一つ見えない風景が映った。なだらかな坂道が終わると、急な傾斜の坂道となり時折岩と岩の間をよじ登らなければいけなくなった。
 二人の少女が案内したのは、大柄な警官の体がやっと通るような岩の隙間を縫ったところにあった。
 洞窟は狭く、かがんで入らなければいけなかった。外の光が入らなくなるところまで来て、二人は立ち止まったので、二人の後についてきていた警官もとまった。
「ここです」
ミランダがそういったかと思うと、三人は電波のようなものに包まれた。それは前と同じように、あっという間の出来事だった。
 三人が気づいたのは、草原の中だった。
今度はどこに来たのだろうと、ミランダは不安に思って目を上げると、ハンギング・ロックの頂上が見えた。どうやら、ハンギング・ロックの麓のようだ。今何年なのだろう。そう思っていると、遠くで人の呼ぶ声が聞こえた。
「ミランダ!」「マリオン!」
呼んでいるのは一人ではなさそうだった。
どこかで聞いたことのある声だった。
「私はここよ!」
ミランダは、ありったけの声で答えた。
すると、人が近づいて来る気配がした。見ると10人ばかりの男たちが草原から現われた。ミランダはその男たちの群れに向かって駆け出した。マリオンも後に続いた。警官は夢中になって駆けはじめた二人をあっけに見とれていた。1900年に戻ったのだ」

僕はこれを読んで、「うまい」とうなった。学生たちにこれほどの文が書けるとは期待していなかったのだ。
 その晩、僕は作文の採点をするのも忘れて、他の学生の作文も次々と読んでいった。どうやら、学生の謎解きの解決法は4つに分けられるようだった。カールたちのように、タイムマシンに乗っていったというもの。宇宙人に連れ去られたというもの。好きな男の子と駆け落ちしたというもの。それに、三人は殺害されたというものもあった。

 

著作権所有者:久保田満里子

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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