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六度の隔たり(12)

 ほっそりと背が高く、青い目に金髪、そしてほどよい高さの形の整った鼻を持つ美人のジェーンは、いつも男性からの注目の的だった。だから恋人作りに苦労をした覚えはない。ジェーンがだれと結婚するかは、ジェーンを取り巻く人たちの間でよく話題にのぼったものだ。結局ジェーンが選んだ結婚相手は、ロンドンの大学で知り合った同級生のデイビッド・リチャードソンと言う男だった。デイビッドは法学部の学生だった頃から議論好きで口が立ち、将来は優秀な弁護士になるだろうと期待されていた。だから、ジェーンが結婚相手に選んだのはもっともだと、皆納得したものだった。デイビットは弁護士としての見習い期間が終わった後、期待通りロンドンでやり手の弁護士としてめきめき手腕を発揮していた。しかしデイビッドが弁護士になって5年目の年、弁護した男に不利な判決がおりた時、つまり離婚した妻が子供を連れて新しい夫と共にアメリカに渡ることを阻止できなかったことで、その男から逆恨みされ刃物で刺されるという事件があった。幸いにも傷は軽くて命に別状はなかったのだが、その事件の後、いつもの自信に満ち溢れたデイビッドが眉間にしわを寄せて物思いに沈むことが多くなった。結局うつ病に陥ったデイビッドはロンドンの喧騒を逃れて、故郷のヨークに帰りたいと言い出し、ジェーンがデイビッドと連れ立ってヨークに来たのは5年前のことだった。
ジェーンとデイビッドの間にはナターシャという小学2年生の娘とケンという小学5年生の息子がいる。ナターシャは、ミアの子供のカイリーのクラスメートで二人はすぐに仲良くなった。そのためカイリーが家に遊びに来るたびに、送り迎えをするミアと話す機会が増え、二人ともテニスが好きだと分かり、週に一回テニスをするようになって、急速に接近した。
ジェーンは、ミアの夫のマークが、銀行強盗の被害を受けたと聞いた時、デイビッドが刃物で刺された時のことを思い出した。そして、転勤命令が出たとなると、他人事とは思えなくなって、ミアにマークの心の支えになるように忠告したのだ。転勤命令がでたために、ミアとせっかく友達になれたと思ったのに、こんなにも早く別れが来てしまい、ミアとの別れはさびしかった。ミアの一家が車に荷物を積んで家を出るとき、家までお別れの挨拶に行った。その時、ミアからベン・マッケンジーなる人物についての情報と、ベンに渡して欲しいという手紙を言付かった。ミアたちの車が見えなくなるまで、ナターシャと二人で手を振って見送った後、うちに帰ると、ジェーンは早速インターネットを開けて、ベン・マッケンジーのクラスメートを探すことにした。クラスメートというサイトに、ベンの名前と高校名、卒業した年を入れて、誰かが連絡してくるまで、待つことにした。
それから、毎朝子供たちを学校に送って行った後、ベン宛に何かメッセージが入っていないか、調べることが日課になった。
最初の一週間は何の反応もなかった。
初めてメッセージが入ったのは、2週目の木曜日だった。
 

著作権所有者:久保田満里子

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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