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前世療法(7)

「あなたの住んでいた村って、どんな所だったんですか?」

リリーは、途中から口をはさんだ佐代子に驚いて、佐代子の方を見た。しかし、リリーが何か言おうとする前に、正二が、佐代子の顔をまじまじと見ながら言った。

「住んでいた村ですか?山に囲まれた、自然の美しい村だったような気がします」

30分という短い時間に見たことは、限られる。だから正二も、そこのところは自信がなさそうだったが、佐代子は正二の答えを聞いて、確信した。

「もしかして、あなたは、同じ前世を見たの?」と、リリーが佐代子に聞いた。

「そうなんです。私も中世のヨーロッパの山に囲まれた村に住んでいて、誰かをいつまでも待っていたんです。でも、その人は現れなかったんです」

正二は、少し落ち着いて、佐代子に言った。

「僕、あなたにはどこかで会ったような気がしたんですが、どこかで会いませんでしたか?」

「いいえ」佐代子は首を振った。

リリーは、おもしろそうに二人を見比べて、

「もしかしたら、あなたたちはソウルメイトだったのかもしれませんね。このあと、二人で話し合ったら、もっといろんなことが分かるかもしれませんよ」と言った。

玲子も意外な事の成り行きに、目を丸くしていた。

 佐代子は、改めて正二を見た。よく見るとなかなかハンサムで目が大きく、まつ毛が長い。背も高く、もしかして、アングルサクソン系の白人と日本人の混血児かなと思った。

 そのあとは佐代子は、早く二人で話し合いと、いらいらしながら、ほかの人の、前世話を聞いた。アメリカのインディアンだったと言う人、インド人だったという人、日本の江戸時代の大名のお姫様だったと言う人。太平洋の島の酋長の娘だったという人。ヨーロッパの小さな国の王様だったという人。色々奇想天外な話があったが、佐代子は上の空で聞いていた。

 「それでは、お開きにしましょう」とリリーが言ったのは、1時間たってからだった。その言葉を待っていたかのように、佐代子は正二に近づいて、

「これからお茶でも飲みに行きませんか」と誘った。初対面の男に声をかけられることはあっても、声をかけるということは、初めての経験だった。

 正二はにっこり笑って、

「僕も、お茶に誘おうかなと思っていました」というので。すぐに話はまとまった。

二人でさっさとコミュニティーセンターを出て、近くのカフェに入った。その時、佐代子は玲子のことをすっかり忘れていた。それほど、興奮していたのだ。玲子は、そんな佐代子を見て、「なんだ、冷たい奴だなあ」とぼやいて、佐代子を残してさっさと帰った。あとで電話して、彼とどうなったか聞かなくちゃと思いながら。

 

著作権所有者:久保田満里子

 

 

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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