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前世療法(12)

第七章 佐代子の2回目の個人セッション

 佐代子は、自分の方から正二に電話するのは控えた。正二の出した結論を聞くのがこわかったからだ。そうこうしているうちに、瞬く間に1週間が過ぎ、佐代子は2回目の個人セッションの日が来た。この1週間正二から連絡がないということは、キムと仲直りをしたので、もう自分には用がないからだと佐代子は解釈した。そうなると、もう前世のことが分かったからって、意味はないように思えて、何度もキャンセルをしようかと思ったが、あの前世での自分の人生に対する興味を捨てきれなかった。トムが戦争から帰ってきて、めでたく結婚できたのか?それとも、彼は戦争で死んでしまって、私は一生未亡人を通したのか?あるいは、トムの訃報を聞いて自殺をしたのか。あるいは、彼のことを諦めて、ほかの人と結婚したのか?いろんな可能性が考えられた。

 佐代子の好奇心が勝って、結局2回目の個人セッションを受けることにした。正二のことはもう諦めようと何度も自分に言い聞かせているうちに、どんな結果が出たとしても傷つかない覚悟ができた。今のところ、佐代子、いや、この過去生では、ハリオットだったが、戦争に駆り出されたトムの帰りを待ちわびていたことまでは、分かっている。佐代子が知りたいのは、トムが戦争に行った後、ハリオットがどうしたかということである。

 これで、前世療法を受けるのは3回目となる。3回目ともなると、最初のように緊張した気持ちはなく、リリーの誘導を受けて、すぐに過去生を見れた。

 また、美しい緑色でおおわれた山の景色が見えた。そして村が見え、一つの貧しい小屋のような家から、ハリオットが出てきた。随分疲れているようだった。手には桶を持っているので井戸から水を汲んで、家に運ぶつもりのようだ。それにしてもおぼつかない足取りだった。ゆっくり井戸の水をくみ上げたかと思うと、力尽きたかのようにその場にしゃがみこんだかと思うと、のめり込むように前に倒れた。しばらくして中年の女が水を汲みに来てハリオットが倒れているのに気付き、呼び起こすが、ぐったりとしているハリオットを抱えることはできず、走ってハリオットが出て来た小屋に行ってハリオットの母親を呼んできた。そして二人でハリオットを抱えてハリオットの家に運び込んだ。ベッドに寝かされたハリオットの息は荒く、苦しそうである。

心配そうにハリオットの母親が、ハリオットの顔を覗き込んでいるのが見える。

「ハリオット、大丈夫?しっかりして」

ハリオットがどうして倒れたのか、よくわからない。

「クレア、悪いけれど、お医者さんを呼んできて」と言われて、ハリオットを見つけた女は医者を呼びに行った。その間、ハリオットの母親はハリオットの顔にあふれ出す汗を濡れた布で拭いていた。ハリオットは意識ははっきりしているようで、苦しそうな息の中で

「ママ、もう、わたし、だめみたい。トムが帰ってきたら、彼を待っていたと伝えて」と言うので、母親は、

「そんな弱気ではだめよ。今お医者さんが来るからね。それまで頑張るのよ」とハリオットを励ましている。

著作権所有者:久保田満里子

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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