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前世療法(13)

しばらくして医者が呼びに行った女と一緒に小屋に入ってきた。

ハリオットを見た医者は顔をしかめた。どうやらハリオットを助けるのは難しそうだ。それでも、ハリオットの脈を測ったり口を開けさせたりして診察している医者にハリオットの母親が、

「何の病気なんですか?急に倒れてしまったんです」と言うと医者は、

「どうやら破傷風にかかったようだね」と言った。破傷風と聞いて驚愕した母親が

「先生、助けてくれるんでしょうね」と医者に縋りつくように言うと、

「助けたいのはやまやまだが、助かりそうもないよ。早く親戚縁者を呼んだ方がいいよ」と言われ、近所の女に、「ジョゼフを呼んできて」と頼んだ。どうやらハリオットの父親の名前はジョゼフと言うようだ。ハリオットは、聞き取りないくらいの小さな声でしきりにトムの名を呼んでいる。

すると、ハリオットの部屋にドタバタと駆け込んでくる足音が聞こえた。

「ハリオット、ハリオット、どうしたんだ」ハリオットの父親のジョゼフだった。

ジョゼフはハリオットを抱きしめると、

「どうしてこんなことになったんだ。死んじゃだめだ」と、大きな体を揺すりながら、泣きじゃくった。

ハリオットは最後の息を振り絞るように、

「パパ、これまでありがとう。ママも。そしてトムに待っていたと伝えて」と言ったかと思うと、大きく息をして、そのあと、ハリオットの呼吸が止まった。ハリオットのそばで号泣する人々を見た時、タイミングよく、リリーが催眠をといてくれた。

「どうでしたか?」というリリーの問いに

「ありがとうございます。ハリオットの最期が分かって、何となく納得できました」と、佐代子は答えた。

 佐代子はリリーの家を後にし家に帰った後も、あの過去生から抜けられなくなっている自分に気づいた。ハリオットが最後までもったトムへの思慕。ハリオットのその気持ちがのり移ったかのように、佐代子は正二のことを簡単に諦められなくなっていた。どうしても、正二と一緒になりたい。でも正二にはキムと言うライバルがいる。この1週間正二から連絡が来ないということは、正二はキムと一緒になる決心をしたということだろう。

 佐代子は玲子に電話した。

「玲ちゃん、相談したいことがあるんだけれど」と言うと、

「ハハーン、正二さんのことでしょ。今日のセッションでどんなことが分かったの?」

「それも教えてあげるから、今からうちに来ない?」

「行く行く」と玲子はすぐに電話を切った。

佐代子はいつでもすぐに駆けつけてくれる友達のいるありがたさをしみじみ感じた。

 30分後に佐代子の家に現れた玲子に、今回のセッションの話をし、正二のハートを射止めるためにはどうしたらいいか、相談した。すると玲子は、

「ボーイフレンドもいない私に相談することではないでしょ」と笑い飛ばした。

「ともかく、正二を呼び出して、正二とキムの関係はどうなっているのか、聞くのが一番よ。作戦はそれから考えたほうがいいわ」と、至極まともなことを言った。

その晩、佐代子は思い切って正二に電話した。すると、

「今電話に出られません。ご用件は留守電に入れてください」というメッセージが返って来た。佐代子は、「佐代子です。連絡ください」とだけメッセージを残して、電話を切った。

著作権所有者:久保田満里子

 

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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