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ある企業家の死(6)

  加奈の週刊XXだけでなく、他社の週刊誌にも佐伯の特集をしているものもあり、加奈は佐伯に関する記事には全部目を通した。そこには、加奈が知らないようなことも書いてある記事もあった。
「沙由紀は佐伯にとって3度目の妻で、友人に300万円あげるから、若い女を紹介してほしいと頼んで紹介され、結婚した。その時沙由紀は家事は一切しない。毎月お小遣いを百万円渡すことを結婚の条件として出し、佐伯がそれを飲む形で結婚した」
 この記事を読んだ時は、金で何でも解決しようとする佐伯と沙由紀らしいと、思わず苦笑いをした。
「佐伯氏が亡くなったあと、覚せい剤のような物が、机の引き出しの中にあったと家政婦は証言したが、沙由紀は、そんなものはなかったと主張した」というものもあった。
 ともかく他殺説の記事の方が圧倒的に多かった。自殺でないのなら、どうして苦い覚せい剤を本人に気づかせなくて飲ませることができたのか?その疑問に答える記事を載せている週刊誌もあった。
「佐伯さんと親しかった佐伯さんの会社の役員の話によると、佐伯氏は2度も脳梗塞を起こしており、味覚感覚が鈍くなっていたそうだ。だからビールに覚せい剤を入れられても気づかなかった可能性があると言うことだ」
 その話が本当ならば、沙由紀の苦みがある覚せい剤を飲ませることは無理だったという説はくつがえされる。
 事件が起こって1週間たっても、警察の捜査の進展は見られなかった。そして警察の記者会見で、警察の次の捜査の対象となっているものの、発表があった。捜査が思うようにはかどらないことにいら立ちを感じたような、不機嫌そうな顔をした管理官は、次のように述べた。
「佐伯氏が死ぬ1週間前、佐伯氏の愛犬エルサが急死している。これはもしかしたら、佐伯氏を殺す前の予行演習として、エルサの餌に覚せい剤を混ぜて殺したのかもしれない。その疑問を解消するために、庭に埋められたというエルサの死体を掘り出して、検視することにした。もしエルサの体から覚せい剤が検出された時は、その覚せい剤は佐伯氏の死因となった覚せい剤と同じ物かを調べることにした。以上」
 何だか、推理小説を読んでいるような展開となり、加奈は何だか探偵になったような気分になった。
 佐伯が行きつけたと言うキャバレーに行ってみたいと思ったが、女一人で行くのは怖かったし、場違いだと思われたらいやだったので、会社の新入社員の藤堂剛を連れて行くことにした。藤堂は名前だけを見ると一見強そうだが、実際には腕力はからっきしなさそうなひょろっと背の高い童顔の青年だった。ボディーガードとしてははなはだ心もとないが、いないよりはましだと加奈は思ったのだ。

注:これはフィクションです。

著作権所有者:久保田満里子

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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