Logo for novels

人探し(12)

1月2日は五十嵐と藤沢に2時に会う予定だったが、お昼前には家を出た。町は時折振り袖姿の女性がいて、町中は平生聞かない琴の曲が流れていた。皆のうきうきした顔が少しまぶしかった。駅前のラーメン屋でラーメンを食べ、ホテルに向かった。ホテルの回転扉を押して中に入ると、五十嵐はすでに来ていた。いつもは家で会うせいか、セーター姿が多いのだが、今日は弁護士として会いたいと言ったせいか、紺色の背広を着て、襟元に弁護士バッジをつけていた。
「よう、久しぶりだな。そうだ。新年のあいさつをしなくっちゃいけないな。明けましておめでとうございます」と、五十嵐がおどけたように言うので、正雄も、「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」と頭を下げながら言った。
「お前のつれって言うのは、一緒じゃないのか?」と聞くので、
「直接ここで会おうと言うことなっているんだが」と、正雄はラウンジを見回したが、藤沢の姿は見えなかった。
「まあ、ともかく座れよ」と五十嵐に言われて、五十嵐の真向かいに座った。そして、用意してきたお年玉の袋を取り出し、
「これ、唯ちゃんと、健太君に渡してくれ」と言って、渡した。
「やあ、すまないな。じゃあ、遠慮なく受け取っておくよ」と五十嵐は、ブリーフケースに入れた。
正雄はもう一度ラウンジを見渡したが、藤沢はまだのようだ。
「で、相談したいことって、何なんだ」
「そうだな。相談の概要は、藤沢さんが来る前に話したほうがいいだろうな。実は…」と、正雄は藤沢のブログを見て、病院で自分が藤沢と取り違えられた可能性に気づき、DNA鑑定をしてもらったこと。その結果自分は藤沢の母親の実子だったことが分かったが、藤沢と正雄の両親とのDNAは合わなかったことを説明した。一旦今までの経過を説明したところで、「遅くなってすみません」と言いながら、正雄たちのいる席に藤沢が近づいてきた。
「ああ、藤沢さん、こちら弁護士の五十嵐。こちら今話した藤沢さん」と正雄は二人を引き合わせた。
「はじめまして。どうぞよろしくお願いいたします」と藤沢は深く頭を下げた。
藤沢が座ったところで、ウエートレスが近づいてきたので、三人は皆コーヒーを注文した。
「今、坂口から大まかなことは聞きましたが、要するに、病院で赤ん坊の時とり間違えられて、坂口も藤沢さんも他人に育てられたと言うことですね」
藤沢はうつむいてうなずきながら、「そうなんです」と答えた。
「XXX病院もいい加減な所だなあ」と五十嵐が言うと、それまでのたまった憤懣を吐き出すように、藤沢は憤慨した顔で言った。
「そうなんです。はっきり取り違えたと言うことは分かっているのに、母が浮気をして作った子だとかいい加減なことを言って。そのために母も僕もどれだけ苦しんだことか」
藤沢の声は最後には怒りで震えていた。
五十嵐はノートを取り出し、
「それでは、まず最初にやることは、病院に非を認めさせることですね。そして、あなた方が生まれた日に、もう一人男の子が生まれていないかを調べることですね」と、言いながら、書き込みをし始めた。
「そうです。母も僕も、何度も病院に抗議をしましたが、全く聞いてもらえませんでした」
正雄も口をはさんだ。
「弁護士からの正式の要請となれば、病院側も非を認めざるを得ないと思うんだ。はっきりしたDNA鑑定書があるんだから」
「そのDNA鑑定書のコピーでももらえるかな。それがないと病院も納得しないだろう」
「分かった。それから何かいる物は、あるか?」
正雄が積極的に話を推し進めようとすると、藤沢は横からおずおずと言った風に、
「弁護士代はいくらくらいかかるんでしょうか」と聞いた。
「そうそう。最初にいくらくらい弁護士代がかかるか、教えてくれよ。俺たちあんまり金がないんだ」
「まあ、百万とみておいたほうがいいだろうな」
「百万!」
「百万なんて安い方だよ。もっとも君たちのケースは、病院から慰謝料が取れそうだから、病院からもらったお金で、払ってくれればいいよ。それに、マスコミに暴露して、マスコミからお金をもらうとか。赤ん坊取違事件なんて、週刊誌が喜びそうな話じゃないか」
「でも、そうなると、僕の母にも、あなたの両親にも分かってしまいますよ」と、藤沢が正雄の思いを気遣って、口を挟んだ。
「それは、今の時点ではしたくない」と正雄も、その案には消極的だった。
「じゃあ、ともかく病院にアプローチして、病院の出方を見てから、その後どうするか決めよう。じゃあ、僕は正月明けに病院長に面会を申し込んで、行ってみるよ」
「よろしくお願いします」と藤沢は頭を下げた。正雄も「よろしく、頼むよ」と藤沢につづいて頭を下げた。


著作権所有者:久保田満里子

コメント

関連記事

最新記事

たくしー

10・25日のお楽しみ! 今回のお題は

人探し(24)

「お母さん。キタガワテツオなんて珍しい名前じゃないから、同姓同名.....

カレンダー

<  2019-05  >
      01 02 03 04
05 06 07 08 09 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  

プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

記事一覧

マイカテゴリー