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人探し(19)

「明日、五十嵐が病院と連絡を取る予定だから、何か分かったら知らせてくることになっているんだ。だけれど、もうそんなに時間はかからないと思うんだ。病院の記録さえ見せてもらえれば、その子供の名前も両親の名前も、住所も全部わかるはずだから」
「そうだな。病院側は罪なことしたものだな」と、史郎が腹立たし気にいった。
「さあ、ぼちぼち寝ようか」と史郎が言った時は、時計の針は既に12時を指していた。
皆「おやすみ」と言って部屋に引き上げ、正雄もベッドにもぐりこんだが、目がさえて眠られなかった。
「お母さんの実の息子は、今頃何をしているんだろう。僕が大切に育てられたように、その人も幸せな人生を送っていればいいんだけれど」と思うと、まだ会ったことのないその男に会うことが楽しみなような不安なような気分になった。峰子から、たとえ実の息子が見つかっても自分たちの関係は変わらないと言われたが、実際に実の息子に会ったら、峰子の気持ちが変わるかもしれない。血は水よりも濃いって言うじゃないか。
 五十嵐からは1月5日に正雄に連絡があった。
「病院側の代表と明日の朝会うことになったが、お前も来るか?」と聞かれ、
「勿論、行く」と、正雄は即座に答えた。
その後すぐに正雄は藤沢に電話して、彼も来るかどうか聞いた。考えて見れば、藤沢と自分の両親のためにやることだ。関係者の藤沢が同席するのは当然のことに思えた。
「昨日から仕事に戻ったので、行きたいけれども、時間がありません」
残念そうに言う藤沢に言った。
「そうですか?じゃあ、僕と五十嵐で交渉してきます」
「よろしくお願いします」
正雄は、電話の向こうで、頭を下げている藤沢を想像した。
その晩、正雄の家族が全員揃ったところで、正雄は
「明日、病院の理事長に会うことになった」と告げた。
「で、病院側はなんと言っているんだ」と敏夫が聞いた。
「何しろ40年前のことだから、よく分からないが、記録を調べてみると言ったそうだよ」
「じゃあ、明日、その記録を見せてもらえるって訳ね」と、千尋が言った。
「うん。記録さえ見せてもらえれば、その赤ん坊の行方は、すぐわかると思うんだ」
「うん。確かに、そうだな」
 峰子も史郎も実の息子に会うのがきっと楽しみなことだろう。だが、正雄に気を使ってかどうか分からないが、嬉しさよりも不安が顔に出てきた。
 翌日の朝、正雄は五十嵐と病院の最寄りの駅で待ち合わせて、病院に向かった。病院に行く道はなだらかな坂道だった。行く道々、五十嵐は、「僕に対する病院の対応は丁重そのものだったよ。訴えられるのをきっと警戒していると思うんだ。だから、きっと全面的に協力してくれると思うよ」と正雄を元気づけた。

著作権所有者:久保田満里子

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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