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塞翁が馬(最終回)

彼女の消息を知ったのは、それから3年後のことだった。ある日、新聞に彼女の写真が大きく出ていたので、吸い寄せられるようにその記事に目がいった。見出しには「今年のマイルズ・フランクリン文学賞受賞者、ブラック里奈さん」と書かれていた。マイルズ・フランクリン文学賞は、日本の芥川賞に相当するオーストラリアの文学賞だということくらい、文学には興味のない私も聞いたことがある。彼女は作家になったのだ。
新聞記事には、次のようなことが書いてあった。
「ブラック里奈さんは、日本から10年前に来豪したが、この度彼女のこの10年間の生活を描写した『愛しのオーストラリア』がマイルズ・フランクリン文学賞を受賞した。結婚してオーストラリアに来た里奈さんだったが、離婚を経験し、大学で博士号を取得したものの就職先が見つからず、一時日雇い労働者になったこともある。失望の日々を暮らしていたが、一念発起してオーストラリアの作家協会に入会。そこで精進した結果、この度の受賞となった。波乱に満ちた移民の物語が軽快な描写で描かれている素晴らしい作品である。日本人では初の入選者である」
この記事を読んだ時、私が里奈に持っていた嫌悪感は魔法のように消えていった。
「彼女、頑張ったんだ。彼女の人生こそ、塞翁が馬ね」と、私はつぶやいていた。

これは、フィクションです。

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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