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墓巡り(4)

ある日朝なかなか起きてこない父親の部屋に行って、まだベッドに横たわっている父親に、おそるおそる「パパ、まだ起きないの?」と体をゆすると、父親の体はすでに冷たくなっていた。驚いて、そのまましばらく座り込んでいた。こういう事態になることを予想もしていなかったので、頭が混乱した。しばらくして、救急車を呼ばなくちゃと思いついて、000番に電話した。
「どうしましたか?」という声が聞こえた。
「パパが死にました」
「えっ?お父さんが死んだんですか?どこでですか?」
僕が住所を言うと、
「ともかく、すぐに、救急車を送りますから、家で待っていてくださいね」
電話の女の人の声は優しくて、動揺している僕を慰めるようだった。
「OK」と短く答えると電話は切れた。僕は客間のソファーに座って、窓から道路の方に目を向けて、救急車が今来るか、今来るかと目を凝らして見ていると、救急車のサイレンの音が聞こえ、僕の家の前に救急車がとまった。僕はすぐに玄関の戸を開けると、救急隊員二人が僕の家に向かって歩いてくるのが見えた。救急隊員は40代の男性と20代の女性だった。
男の隊員が
「救急に電話したのは、君か?」と聞くので、僕は黙って頷いた。
「お父さんはどこ?」と言うので、黙ってお父さんの寝室に二人を案内した。
男の隊員が、お父さんの脈をみたり、目に懐中電灯を当てて瞳孔を調べていたが、「もうだめだね」と、力なく首を横に振った。男の隊員がお父さんを調べている間、女の隊員は僕を慰めるように色々話しかけてきた。
「僕の名前は何て言うの?」
「浩二 スワン」
「お母さんは、今どこにいるの?」
僕が一番聞かれたくないことだった。
「知りません。僕が小さい時に家出したんです」
隊員は一瞬憐れむような顔をした。
「それじゃあ、親戚の人は?親戚の人に連絡した方がいいと思うんだけれど、親戚の人の電話番号分からないかしら」
と言うので、僕は
「親戚なんていない」と言うと、
「それじゃあ、お父さんの友達とかは?」
そんなことを聞かれても僕には答えようがなかった。一度だってお父さんの友達と言うのに会ったことはなかったのだから。
隊員は困ったような顔をした。
 そしてパートナーの隊員の方を見て、
「児童相談所に連絡した方がいいみたいね」と言った。
それから、警官が来て、僕のお父さんの体を運び出した。死因を突き止めるために解剖をすると言うことだった。
 パトカーや救急車が家の前にとまっていたので、近所の人がだんだん集まって来て、ひそひそ話を始めた。今まで付き合いのない人達だったが、野次馬根性で集まったのに違いない。その近所の人達に女の救急隊員が近づいて行って、何やら話しかけていた。すると、その中の近所の老齢の夫婦と一緒に、僕の方に来て、
「ともかく、今日は一人でいるのはよくないから、この人達の家に泊めてもらいなさい。こちらはサイモンで、こちらはセシールよ」と二人を紹介してくれた。
「明日には児童相談所の人が来るからね」と言われた。
その晩僕は知らない人の家に泊めてもらうことになり、僕は本当に一人ぼっちになったことを思い知った。これから僕はどうなるんだろうと思うと悲しみよりも不安の方が勝った。

著作権所有者:久保田満里子

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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