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藤沢美恵子さんの物語(2)

 短大卒業後、事務系の仕事をする人もいたけれど、この頃は女性は結婚するまでの腰掛としてしか扱われなかったから、事務職には興味がなかった。それに一日中机の前に座りっぱなしの仕事と言うのは、私の性分には合わなかったわ。そこで、犬が大好きなので、犬の訓練士になりたいと思ったの。でもその頃、犬の訓練士のための学校は大阪にはなかったのよ。京都にドッグセンターがあったのを見つけて、京都のドッグセンターに1時間かけて通い始めたの。ところが私はシェパードなど大型犬などは、ひっぱられるばかりで、ひっぱっていく体力がない。これでは訓練士になれる見込みが全くないと言うことに気づいて、犬の訓練士になることは諦めたわ。そこで、犬の美容院なら小型犬ばかりあつかうことになるので、私にもできそうだと思って、犬の美容師に転向することにしたの。犬の美容院を見つけてそこで雇ってもらい、3年くらい勤めて、その間グルーミングの仕方を勉強したわ。そのあと自分のサロンを作ることを決意したの。自宅の物置きみたいなところが通りに面していたので、一部を改装して、犬の美容院を開いたの。これが結構あたったの。1970年代の頃、犬の美容院なんて余りなかったので繁盛したのよ。平均すると毎日5匹くらいのお客様が来たわ。大体1か月から3か月おきくらいに来たので、顧客の数を計算すると、200匹くらいということになるかしら。
 顧客は水商売の人が断然多かった。あと、2号さんとヤクザもいた。京都の犬の美容院に勤めていた時は芸者さんもいた。今でこそ普通の人でも犬の美容院を利用する人はいるけれど、その頃普通の人で犬をグルーミングに連れて来る人はいなかった。そのうち犬の美容院も段々増えて競争相手が多くなったけれど、固定客がいたので、客数は減らずに済んだわ。お客さんは、前にも言ったように水商売の人が多かったけれど違和感はなかった。上から目線の威張った人は嫌いだけれど、水商売の人たちなので皆人当たりの良い人達だった。意外に思うかもしれないけれど、利害関係がないのでヤーさんも人当たりが良かったわ。
 24歳くらいでグルーミングサロンに勤めて、独立したのが27歳の時。それから9年、35歳まで自営のサロンを続けたわ。その頃、ビジネスは繁盛し支店も作ったのよ。本店に2名、支店に2名、犬の美容専門学校を卒業した若い女の子達を雇っていた。ただ支店には、週1回しか行かなかったので、支店の方は余り顧客が増えず、余り利益はあがらなかったわ。
 噛む犬はいっぱいいたけれど、そんなのは余り気にならなかった。グルーミングしながら聞く顧客の話が面白かったわ。
 最初のころ顧客が少なかったので、出張美容もやっていて、ヤクザのところにも出入りしたことがあるのよ。
 あるヤクザは貸しマンションを持っていてマージャン教室や雀荘などを経営していたんだけれども、ある日グルーミングしていたら、すごい量の水が上から漏れてきたことがあった。お風呂の水が流れ落ちてきたらしいの。その時、怒った犬の飼い主が、上の階の人に電話してすごんだ時は、怖かった。その時初めてヤーさんは怖いと思った。そのあと、どうなったのかは帰ったので知らない。また、知りたくもない。
 段々店の方が忙しくなったので出張美容を辞めたら、ヤクザの若いのが親分の犬をタクシーで連れて来るようになった。そのヤクザは2匹の犬を飼っていたけど、古株は気が荒くて、古株が新入りを良くいじめていた。ヤクザの世界と同じだなあと思った。
 もう一人のヤクザの飼っていた犬は、すぐに噛むので、来たらすぐに口を閉めて、噛まれないように注意した。小型犬なので、大けがをすることはなかったけど。
 話が戻るけれど、支店を出す時、そこが顧客のヤクザの縄張りだったので、何かあったら言ってくれと言われた。幸いにも何のトラブルにも巻き込まれず、世話になることはなかった。普通、店を出すとトラブルから守ってやるから金を払えとヤクザが言ってくるのが普通だけれど、誰も何もいってこなかった。まあ犬の美容院は関係なかったためかもしれないけれど、ほっとした。だって、ヤクザに頼みごとをして、あとで、ほかのお客さんが暴力沙汰に巻き込まれることになったら、困るもの。

ちょさk

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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