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岡上理穂さんの物語(3)

久保田:ポーランドに留学した時、どんなカルチャーショックがありましたか?
岡上:天と地がひっくり返ったようなショックでしたね。日本のような消費社会から物不足の共産圏に行きましたから、ショックどころじゃないんですよ。1980年代のポーランドは物資不足が深刻でした。たとえば、向こうはパンが主食ですよね。パン食にはバターとかハム、ソーセージが欠かせないのですが、そういう通常の食べ物が手に入らないんですよ。主食の肉類も手に入りませんでしたね。魚屋も店にあるのは氷だけ。私が買い物をしようと思って、店に行っても何もない。私は単純に売り切れたのかと思って、次の仕入れはいつなのかと聞くと、変な顔をされるわけ。いつまた品物が入ってくるかとか、どの品が入ってくるのかとか店の人も知らないんです。というわけで、物資不足はすごいんだけれど、ポーランド人のお宅に招かれて行くとテーブルの上にご馳走が並んでいて何でもある。どうしてかと言うと、オフィシャルなマーケットと、ブラックマーケットが並行して存在したからなんです。お店に行って何もないなら、飢えて死んじゃうのっていう話になるじゃないですか。でも何世紀も侵略者に痛みつけられてきたポーランド人はタフなんです。共産党が統制している表向きの経済があるんだけれど、それでは皆生きてはいけないから、ブラックマーケットができるんです。
ある時、田舎から肉を売りに来る闇屋のおばさんが「私はお腹空かせたワルシャワの人たちを助けるために危険承知で闇肉屋やってるのよ。私の爺さんもドイツ占領中、命がけで肉をワルシャワに運んでたんだ。」と言うのを聞いて成程と思いましたね。こんな表と裏の存在に慣れるまで、かなりの時間がかかりました。


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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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