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陽気な美容師(2)

1か月後の火曜日
「いらっしゃい。またきてくださったんですね。ありがとうございます。今日はどうしましょうか?今日は、髪の毛を染めたい?それじゃあ、茶色っぽく染めましょうか?はい、かしこまりました」
「ウクライナ戦争?あれは、私もびっくりしました。まさかロシアがウクライナを攻めるなんて思いもしませんでしたねえ。ウクライナは兄弟の国なんて言っていたのに。プーチン大統領の覇権主義には、うんざりさせられますね。ロシアが核兵器を使うなんてほのめかすものだから、ウクライナも西洋諸国もロシア本土には攻撃を加えられないから、ウクライナはやられっぱなしって感じですね。中国も領土拡張をもくろんでいるし、世界はどうなっていくんでしょうねえ。日本はアメリカの核の傘下にあると信じて、のんびりしていますが、アメリカでもトランプ大統領のような人が出てくると、余りアメリカも頼りになりませんしねえ。日本も自衛力をあげないといけないと思いますよ。あ、すみません。お客さん、沖縄からいらしたんですか?米軍基地がなくなればいいと思っていらっしゃる?そうですねえ。そのお気持ちもわかりますが、日本が自力で国を守らなければいけないことになると、自衛隊の拡大をせざるを得ないでしょうねえ。
 あ、すいません。ちょっとお話に夢中になって、短く切りすぎたようですね。でも、短いほうがお似合いですよ。また、いらしてください」

水曜日
「いらっしゃいませ。林さん、日本にお帰りになるんですか?オーストラリアには何年住んでいらしたんですか?25年!どうして、お帰りになるんですか?やっぱり日本のほうがいいですか?ああ、お母様の介護をするために、日本に帰る事にされたんですか。おえらいですねえ。私なんかも母が日本で一人で暮らしていますけど、近くに姉が住んでいるので、姉に頼りっぱなしです。私が年を取ったとき、どうするつもりかですか?子供がいますから、やはりここに永住するつもりですよ。もっとも子供に面倒を見てもらおうとは思いませんけれどね。自分で自分のことが面倒を見られなくなったら、潔く老人ホームに行くつもりです」
「日本にお帰りになったら、さびしくなりますねえ。ここに来るお客さんは、ビジネス関係の方が多いので、3年ぐらいで帰られる方が多いんです。林さんとは20年お付き合いさせていただいたので、本当に寂しくなります。私もここに永住するといっても、日本のサービスの良さとか、景色の美しさ、歴史の重みなどを感じるときは、日本に帰りたいなあと思うことがありますよ。日本に帰られたら、お母様と同居されるわけですね。またメルボルンにいらっしゃることがあったら、連絡してくださいね」


著作権所有者:久保田満里子
 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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