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思わぬ出来事(1)

 ホワイト美幸は、いつもは見ない新聞の葬式の通知の欄に何げなく目をやり、アーサー・キングの名前が目に入ってきたときは、驚いた。アーサーは、美幸がワーキングホリデービザ、いわゆるワーホリビザを取ってオーストラリアに来てアルバイトをした時の、土産物店の店主だった。土産物店で1年働いた後は、結婚して店をやめたため、もう10年以上もアーサーに会っていない。しかし実際に彼の名前を新聞で見ると、懐かしさがこみあげてきた。まだオーストラリアに来て間もなくて西も東も分からなかった美幸をすぐに雇ってくれた、オーストラリアでの恩人と言える。またオーストラリア人の夫と会ったのもその土産物店だった。当時同じ店でアルバイトをしていた夫と結婚した時も、式には参列してくれた。商売に抜け目のない人だったが、それなりの人情を持ち合わせている人だった。彼が雇ってくれなかったら、夫とも会っていなかったし、持ってきたお金はすぐに底をついて、日本に帰らなければいけないところだった。美幸が会った時はアーサーはすでに60歳近かったと思う。それにしても70代で亡くなるなんて、今の時代には若死にだと思える。
 今は小さいながらも雑貨店を経営している夫が仕事から帰って来た時、
「アーサーが亡くなったようよ」と言うと、夫は一瞬戸惑ったようで、
「アーサー?誰だ、それ?」と聞くので、夫の記憶には残らなかった人なのかと、少し驚いた。
「あの私たちが出会った土産物店の店主の…」と言うと、
「ああ、あのアーサーか」と、やっと思い出してくれた。
しかし、「へえー、そうか」と言ったきり、葬式はいつなのとかも聞かない。
「私、お葬式に行こうと思うんだけど…」と、美幸が言うと、
「うん、いいよ。で、葬式はいつ?」と初めて葬式の日時を聞いた。
「来週の木曜日の11時からということよ。スプリングベールだっていうから、そんなに遠くないわ」と言うと、「そうか。でも、その日は僕は仕事があるからいけないな」と言うので、美幸は一人で行くことにした。

ちょさ

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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