Logo for novels

香港への旅(2)

香港は中華人民共和国の一部でありながら、香港とシェンゼンの間で、外国に行くような出入国の手続きをしなければいけない。入国手続きをすませてやっと、シェンゼン側に入ると美紀子が手を振って、私を迎えてくれた。美紀子とは3年ぶりの再会あだった。美紀子の夫、和弘も来ていて、私の手荷物を持ってくれた。和弘の車で、美紀子が最初に連れて行ってくれたのは市役所だった。まずその建物の大きさに目を見張った。大理石でできた内装は、いかにもお金をかけたと言う感じで、私達を圧倒した。そこで朝ご飯をごちそうになった。朝ご飯とはいえ、とうてい食べきれそうもないくらいの量のお皿においしそうな食べ物が並べられていた。その後は大きなショッピングセンターに連れて行ってくれた。ショッピングセンター内の品物の値段は、10万円もするワイシャツなど、オーストラリアとたいして値段が変わらないどころか、高かった。だから見て歩いただけだったが、中国の経済力を感じさせられた。その後、美紀子達はマーケットに連れて行ってくれた。マーケットで売っているものはいかにも安物と言う感じだで、それなりに安かった。私はメルボルンの友達にお土産にと安いアクセサリーをたくさん買った。夕方はゆっくりとレストランで食事をしたが、その後、美紀子が足のマッサージをしたらどうかと言い出し、私もその気になって、マッサージ屋に連れて行ってもらった。若い中国人のマッサージ師の女性に洗面器に入った熱い湯に足をつけるように言われ、我慢して熱い湯で足をふやかした後、そのマッサージ師に足をもんでもらった。気持ちが良くなるだろうという期待に反して、マッサージ師が力いっぱいもむため、悲鳴を上げるくらい痛かった。もっとやさしくやってと注文を付け、やっと気持ちよくなって、心地よい眠りに誘われそうになった頃、マッサージがすみ、時計を見ると、香港行きの最終列車が出る時間が1時間後に迫っていた。慌てて、和弘の車に飛び乗って、香港行きの電車の駅のそばにある出国管理の建物にたどり着いた時は、最終電車の時間は30分後に迫っていた。見渡すと、多くの人が群れを成している。こんなにたくさん人がいては間に合わないのではないかと焦りを感じたが、よく見ると、外国人用の受付には、中国人用の受付ほどは人が並んでいない。「よかったあ。外国人専用の出国手続きはあまり時間がかからないだろう」と思い、いったん安堵したのだが、それが間違いのもとだった。見る見るうちに中国人の列は短くなっていき、ほとんど人がいなくなった。それなのに、外国人用の受付は一人一人に時間がかかり、自分たちの番はなかなか回ってきそうもなく、段々イライラし始めた。やっと、受付を通り抜けた時に、突如尿意をもよおし、トイレに駆け込んだ。後ろから、アイバンが「もう、電車が来ているぞ」と叫んでいるのが聞こえたが、尿意には勝てず、アイバンの声を無視してトイレに入り、慌ててトイレを済ませて出たところで、電車の発車合図のベルが鳴り始めた。死に物狂いで電車のホームへの階段を駆け下り、間一髪で電車に乗ることができた時は、ほっとして、思わず「ふう」と息を吐きだした。アイバンが「こんな時にトイレに行くなんて」と不機嫌だったが、「ともかく、最終電車に乗れたんだからいいじゃない」とアイバンに言い返して、空いている席に腰かけた。窓から見える明かりを眺めていたが、突如、そういえばパスポートはどこに入れたっけと、気になり始めた。ハンドバックの中を見ても、見当たらない。これはまずいことになったぞと、顔が青くなっていくのが自分でも分かった。ハンドバックの中身をひっくり返してみた。しかし、ない。そのうちアイバンが私がもぞもぞしているのを不審に思って、「何しているんだ」と聞いてきた。言いたくなかったが、本当のことを白状せざるを得ない状況に私は追い込まれた。

ちょさ

コメント

関連記事

最新記事

カレンダー

<  2024-05  >
      01 02 03 04
05 06 07 08 09 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  

プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

記事一覧

マイカテゴリー