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木曜島の潜水夫(15)

もう一つトミーには憂慮することがあった。それは日豪関係の悪化である。オーストラリア政府は日本軍が満州を占領し、南下をし始めると、オーストラリアまで占領するつもりではないかと日本に対する警戒心を強めていた。そのため、1940年には日本の進軍に備えて、オーストラリア海軍の軍艦ジーランジア(Zealandia)が木曜島の港に停泊した。そして、島のミルマンヒルと言う丘には、4.7インチの砲台が取り付けられ、サーチライトも取り付けられた。日本人は外人登録が義務付けられ、トミーも登録させられた。その上、1941年5月には百人のオーストラリア人の兵士が木曜島に駐屯すると、島には緊迫した空気が漂い始めた。日本人がそれまで借りていた53隻の船は、42隻までに減らされた。日本人に対する経済封鎖がささやかれ始め、将来に不安を感じた日本人が帰国し始めた。しかし、トミーには、日本に帰国する選択肢はなかった。トミーには島に家族がいた。一人また一人と日本人が帰国するのを見送りながら、トミーは6名の日本人と3名の現地人の9名の乗組員を率いて、真珠貝採取を続けていった。遠出をするため、何か月も島を離れることも多いが、採取から戻る時は、木曜島からも見えるレッドポイントで薪を燃やし、トミーの帰りを待ちわびている家族に、もうすぐ帰宅することを知らせた。戦争の緊張感が高まる中、トミーは家族のことが気がかりだった。

ちょさk

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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