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オーストラリアの大学生諸君(4)

ミッシェルに電話すると、きのうお葬式に行ってきたということだった。「お別れをしようと思ったけれど、頭は銃で吹き飛んでいて、お葬式で顔を見ることができなかったの」と、また泣いた。

他の仲間と連絡をとると皆試験が終わっていたので、ミッシェルを慰めるために、皆でミッシェルを誘ってクイーンズランドに行こうと言うことで話がまとまった。ミッシェルも同意したので、エミリーのマツダ323で、皆で交代して運転をしていくことになった。どこかに泊まりたかったが、どの宿泊施設も満室で予約がとれなかったので、テントで寝ることにしてテントを持っていった。行きはエミリーがほとんど運転したのだが、ひやひやすることがしばしばあった。前を走るトラックを追い越そうと右の車線に入ったら、大きなトラックが向かってきており、ほとんど衝突するのではないかと悲鳴を上げた瞬間、エミリーがうまくハンドルを切って元の車線に戻ることができた時は、命が縮む思いだった。オーストラリアの大都市を結ぶ高速道路はどこまでもまっすぐなので、眠気を催す。ところどころ、「眠気はあなたの命取り。眠くなったら、休め」という標識が立っている。エミリーの目がとろんとしてきたとき、ドッキリした。そこで私が交代したのだが、結局ゴールドコーストに行くのに2日かかった。シドニーに1泊したのだが、幸いにもリズの親戚がシドニーにあったので、無理を言って、客間に寝袋を広げて皆で雑魚寝させてもらった。ミッシェルは当然のことながら、ずーっと口数少なく、考え込むことが多かった。時には涙顔になったが、皆でわいわいいつものように言ってミッシェルを無視した。それがミッシェルに対する思いやりだと、私たちは思ったのだ。

ゴールドコーストの海は青というより、緑と白の絵の具を混ぜ合わせたような明るい海だった。冬とはいえ日差しは暖かく、夏服でも十分歩ける。ただ海の水は冷たく、ボディスーツを着てサーフィンをしている若者はいたが、海で泳ぐ人影はなかった。砂浜は、ビーチボールをしたり、砂遊びをしたり日光浴をしたりする人で溢れていた。

砂浜に沿ってある商店街でアイスクリームを買った後、私たちは砂浜に行った。日焼け止めの薬をたっぷり塗って、サングラスをかけて明るい太陽を眺めながら、アイスクリームを食べた。アイスクリームを食べた後は、砂浜に寝そべった。砂浜の砂はさらさらしており、その感触が気持ちよい。ミッシェルには悪いと思うが、幸せな気持ちだった。

リズとエミリーがトイレに行った時、旅行に出て初めて二人になった。

「ミッシェル、もうフランクのことはあきらめなさい。あんたにはもっといいボーイフレンドができるわよ。まだ若いんだし。フランクとたとえあのまま一緒になったて、あんたが幸せになれたとは思わないよ」と、初めて自分の思っていることをミッシェルに言ってみた。

「ケイト、あの人が死んでからずっと考えていたんだけれど、結局私は彼には全然愛されていなかったことに気づいたの。警察が、彼が銃をどこで手に入れたか調べたら、一ヶ月前に射撃クラブに入って、銃購入の許可証をもらって、買ったってことが分かったんだって。もう一ヶ月も前から、今度のことを計画していたんじゃないかって。彼の無理心中の原因は、息子に対する愛からというより、別れた奥さんに対する面当てじゃないかと思い始めたの。だって、息子を本当に愛していたら、殺せないと思うもの。そう考えていくと、彼は奥さんに対する思いを捨て切れなったんじゃないかと思うの。そう思うと悔しくて仕方ないの」と、はらはらと涙を流した。

「ミッシェルは、彼のどんなところに惹かれたの?」

「そうね。いつもさびしそうな感じだったから、あの人を幸せにしてあげたいと思ったのよ。私なら、彼を幸せにしてあげられるって。でも、それは傲慢な考えだったかもね。結局は、あの人の心の中には別れた奥さんしかいなかったのよ」

エミリーとリズが戻ってきたところで、ミッシェルとの会話が途切れた。その後、フランクについて話すこともなく、ゴールドコーストでの一週間は終わってしまった。

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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