私のソウルメイト(8)
更新日: 2011-10-30
日本から帰ってくると待ち構えていたかのように、京子から電話があった。京子はいつもと違って、何か嬉しいことがあったらしく、声が弾んでいた。しかし、「何かいいことがあったの?」と聞いても、「ちょっと、電話ではいえないから、会って話すわ。いつ会える?」と聞いてきた。私も誰かにロビンのことを話したくてうずうずしていたので、「明日はどう?」と聞いた。「じゃあ、明日うちに朝10時に来て」と京子が言うので、翌朝の10時に京子のうちのドアをノックした。待ち構えたように出てきた京子に引き入れられてうちに入り、ソファーに腰掛けるまもなく京子は
「私、タツロットで600万ドル当たったわ」と言った。
「えっ、600万ドル。それ、6億円のことじゃない。本当」
「本当よ。私も最初は信じられなかったけれど、早急に作った銀行口座にきのう600万ドル入っていたわ」
その時の私は目をまん丸にしていたに違いない。夢を見ているのではないと脳が理解するまでに、時間がかかった。その後出た私の言葉は、
「600万ドルなんて、羨ましいわ。600万ドルも何に使う気?」だった。
「夕べ、どうしようかと興奮して寝られなかったわ。これは誰にも言わないでね。ロベルトにもエミリーにもフランクにも言ってないの」
「えっ、どうして」
「だって、あのしみったれのロベルトのことだもの、自由にお金を使わせてくれないに決まっているわ。だから、ロベルトには秘密にしておきたいの。エミリーやフランクには言いたいのは山々で、もう口から言葉が出掛かることがあるんだけれど、我慢して言ってないのよ。だって、言っちゃうと、エミリーもフランクもロベルトに言いたくなるだろうし、言わないと罪悪感を感じるだろうと思うと、結局は子供たちを苦しませるだけだけじゃない。だから、二人を巻き込まないことにしたのよ」
「600万ドルあったら、もう左手団扇で暮らしていけるわね。銀行の利子だけでも、年間42万ドルはいるじゃない」
私は羨ましさが先にたって、ロビンのことを聞いてもらおうと思ったのに、ロビンのことはすっかり忘れてしまった。
「ねえ、マンションを買おうと思うんだけど、どう思う?」
「いいじゃない」
「私、うちにいるとロベルトがきれい好きで、少し散らかしただけでも機嫌が悪いので、結婚してからはずうっと自分だけの自由にできる空間がほしいと夢見ていたのよ。だから、私がまずやりたいことは、マンションを買うこと」
「600万ドルあれば、豪邸だって買えるじゃない」
「豪邸って、維持するのに結構大変じゃない。庭の手入れとか、プールの手入れとか。ロベルトに知られないように、自由を満喫するのは、マンションで十分よ。きのう不動産屋に行って、パンフレットをもらってきたんだけど、もとこさん、一緒に見に行ってくれない?」
「勿論よ。私、家を見るのは大好きなのよ。いつ行くの?」
「来週の火曜日はどう?火曜日なら私もパートの仕事がないから」
「ええ、600万ドルも持っているのに、スーパーのレジの仕事続けるつもり?」
「勿論よ。やめたら、ロベルトに変に思われるわよ。これから送る2重生活のことを考えると、楽しいわ。だって、何のとりえもないスーパーのおばさんが、実は金持ちなんだって、小説に出てきそうじゃない。でも、このことを知っているのは親友のあなただけだから、私を裏切らないでよ。絶対、アーロンやダイアナにも内緒よ」
私は京子の幸運が自分の幸運のように思われてきて、舞い上がってしまった。親友と二人だけの秘密を持つスリル。それに家族にも秘密にしていることを私に教えてくれた京子の気持ちが嬉しかった。私も京子の信頼を裏切らないように、京子の秘密を絶対に口にしてはいけないと思いながら、京子のうちを出た。
著作権所有者:久保田満里子
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