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私のソウルメイト(24)


「さあ、足元を見てください。あなたはどんな履物を履いていますか」
「布でできた古くてきたない靴です」
「あなたはどんな服を着ていますか?」
「黒いワンピースで白いエプロンをつけています。頭には帽子をかぶっています。どうやら私はメイドのようです」
「それは何年ですか?」
私の頭の中に1876と言う数字が浮かんできた。
「1876年です」
「あなたはどこにいますか?」
「どうやら、イギリスの町のようです。町の名前は、ヨーク?ヨークです」
不思議なことに、質問をされるたびのその答えが自然と私の頭に浮かび上がってくるのだ。
「あなたの名前は?」
「ハリオットです」
「あなたは何をしていますか?」
「台所で、他の2名のメイドと一緒になって、じゃがいもをむいています。どうやら晩御飯の支度をしているようです。他には女中頭みたいな太った中年の女が見えます」
「そのうちには、どんな人が住んでいるのですか?」
「ええと、40歳くらいの領主と領主の奥さん、それから20歳になるお嬢様と17歳になるお坊ちゃん、あ、そのお坊ちゃんは、ロビンです。顔とか体つきは全然違いますが、あの目はロビンの目です。間違いありません。ロビンは私を見て笑っています。そのほか広い3階建てのお屋敷には、いかつい顔をした執事、女中頭、私のようなメイドが3人、庭師が2名、馬の飼育係が一人います」
「どんなことが起こっていますか?」
「ロビンは、私を連れて、干草の積まれている納屋のほうに手を引っ張っていています。そして私たちは干草の上でじゃれあっています。二人ともけたけた笑っています。私はロビンが好きなのです。ロビンも私が好きなようです。ロビンが私を抱いています。干草のぷんとした匂いを嗅ぎながら、私はとても幸せな気分です」
「場面が変わりました。私は領主の前に立たされて、小さくなっています。どうやら領主はかんかんになって怒っているようです。私は妊娠したのです。お腹の子の父親はロビンです。領主はメイドの私に息子の子供を生ませることはできないと、わめいています。ロビンは見当たりません。どうやら、女中頭が私の妊娠に気づき、領主に報告したようです。そこでロビンはロンドンにある親戚のうちに行くように言いつけられ出かけたようです。これは領主がロビンと私の仲を切り裂くためにしたことのようです。つまり、ロビンのいない間に私を追っ払うつもりなのです。私はうつむいて泣いています。領主は、自分の友達の雇っている馬の飼育係の男と結婚するように、私に命令しています。明日の朝早くお屋敷を出て行くように言われました。その後、自分にあてがわれた小さなメイド用の3人部屋にもどると、私はベッドに潜り込んで、ずっと泣いています。友達のメイドは私を取り囲んで見ています。同情しているようです。ああ、そのメイドの一人が京子さんです。私は、翌朝早くたたき起こされて、小さな風呂敷き包み一つ持って、女中頭につきそわれてお屋敷を出て行きました。出て行くとき、京子さんは私の肩を抱いて何も言わずに泣きました。もう一人のメイドも泣いています。馬車に乗せられ連れられて行ったところは、ロビンの住むお屋敷から一時間もかかる所にありました。大きな3階建てのお屋敷の裏にある馬小屋に連れて行かれました。そこには、馬の体を拭いている男がいました。その男は、女中頭に声をかけられ、顔を上げました。25歳くらいの青い目をしている男でした。ああ、アーロンです。アーロンはちらと私を見ただけで、女中頭の話を聞きながら、また馬の体を拭く作業を続けました。女中頭は「今度あなたと結婚することになったジュディよ」と私を紹介していますが、アーロンは大して私には関心なさそうです」
そういったところで、マクナマラ先生の声が聞こえてきた。
「それでは、もうそろそろ今の時代にもどりましょう。あなたは、段々目が覚めてきます。1,2,3.さあ、目が覚めました。目を開けてください」
私はマクナマラ先生の指示に従って、ゆっくりと目を開けていった。すると、そばでマクナマラ先生が笑顔を浮かべて立っていた。
「あなたは、本当に催眠にかかりやすい人のようで、今日一回のセッションで、随分収穫がありましたね。もう1時間経ちましたが、これかれも続けていきたいですか?」
私は、今見てきたことを心の中で反芻し、興奮をおさえきれなかった。
「ええ、是非続けていきたいです」
私は、あの後、私とアーロンはどうなったのか、ロビンとはどうなったのか知りたかった。


著作権所有者:久保田満里子

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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