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私のソウルメイト(49)

京子にもロビンから誘いがあったことを話すと、大喜びしてくれた。
「よかったじゃない。アーロンも勝手に女を作って出て行ったんだから、あなただって、素敵な人に出会って幸せになる権利があるわよ。アーロンが出て行った後、あなたの落ち込みようがひどいので、実は心配していたのよ」
「でも、これでロビンとの仲が発展するという保証はないから、ぬか喜びにならなければいいんだけど」
「あなたって、本当に心配性ねえ。うまくいくわよ」と京子に太鼓判を押されると、何となく事態が良いほうに向かうように思えてくるから不思議である。
土曜日の朝、京子はうちに来て、
「これ、私からのプレゼントよ」と、紙袋を渡した。
「何、これ?」と言いながら中を見ると、高級そうなドレスが入っていた。
「きょうは、ばっちりきめていかなくてはね」と京子は言い、
「早く、着てみて。サイズが合わなかったら、取替えに行かなくちゃいけないから」と私をせきたてた。
 ドレスを着て鏡の前に立つと、柔らかに体の線をかもしだした水色のドレスが、私の黒い髪に合って、我ながら美しく見えた。照れくさそうに、「馬子にも衣装ね」と言うと、ダイアナが見に来て、「わあ、ママ、素敵」と感嘆の声を上げた。
私は七時半に京子とダイアナから「頑張ってね」と声援を受けて、家を後にした。まるで、戦場に行く兵士のように、気持ちが高揚していた。
「嵐山」に行くと、ロビンが先に来て待っていた。
「今日は、お誘いありがとうございます」と挨拶しながら握手をすると、
「さあ、座ってください」と席から立って、私の椅子を引いて座らせてくれた。
「離婚されたんだそうですね」と、私のワイングラスに赤ワインを注ぎながら言った。
「そうなんです。主人は好きな女の人を作って、家を出て行きましたわ」
答える私は自嘲気味になっていた。
「前に、君は僕たちはソウルメイトだったって言いましたよね」
「ええ」
「実はあの後、僕は君の事が気になって仕方なくなったんですよ。自分でもおかしいくらいに、仕事の合間に君のことを考えていた。だから、実は僕も退行催眠をやってくれる精神科医を探して、退行催眠をかけてもらったんです」
私は驚いて、じっと彼の目を見た。
「で、どんなことが、分かりました?」
「あなたの言ったとおり、日本の侍の時代に、農民として生きていた時代をまず最初に見ました。その時は、僕は女で、あなたの妻でした。その時の僕はあなたをとても愛して尊敬していたんです。あなたが直訴をするために村を出た後、僕は毎日泣いて暮らしましたよ。あなたが出て一週間後に、あなたが打ち首になったというニュースが村に伝わってきたんですが、その時のショックは今でも思い出すと泣けてくるんです」と言うロビンの目は涙で潤っていた。
「それから、イギリスでの人生。僕は、君がどうして急に僕の目の前から消えて、他の男と結婚したのか分からず、君に対して憤りを感じていたんですよ。黙っていなくなるなんて、許せなかったのです。ましてや、僕達の間に子供がいたなんて、思いもしませんでしたよ。子供がいると分かったのは、父の臨終の時です。死期を感じた父があなたが妊娠したので、屋敷から追い払ったことを教えてくれたのです。父はそのことで、心が咎めていたのだそうです。その子は、父にとっては孫に当たるのですからね。その時の僕は違う人と結婚していたし、子供の時ならいざ知らず、大人になっていましたから、階級性の厳しいイギリスの社会で、メイドの君と結婚できないことも分かっていたので、子供がいると知っても、どうしようもなかったのです。でも、死ぬまで君に対して悪いことをしたと、気が咎めていました。その時もう一つ分かったことは、その時結婚した相手が、僕の交通事故で死んだ妻だったんですよ」

著作権所有者:久保田満里子

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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