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私のソウルメイト(52)

幸せにどっぷり浸かっているいるうちに、家の競売の日が明日に迫った。その晩は、家がいくらで売れるか心配でなかなか眠れなかった。不動産屋は百万ドルで売れると言ってくれたが、どこまで信用できるか分からない。ともかく百万ドル以下では売らないからと不動産屋には釘を刺しておいた。この日はロビンと京子とロベルトが来てくれ、少し心強く感じた。午前十一時の競売の予定で、不動産屋は競売人と一緒に十時にうちに現れ、うちの前に家の写真がついた広告の衝立を出し、家に「競売」と書いた旗を掲げた。十時半から三々五々人が集まり始め、不動産屋の配る家の間取りの描いてあるパンフレットを片手に家の中を見て回り始めた。家の前には近所の人の顔も見える。私の家がいくらで売れるかを見て自分の家の値段の参考にしようと言うわけだ。十一時になると家の前には三十人ばかりの人が集まってきていた。
 私たちは家の中から競売の様子を見ていた。競売人が家の説明と売買上の注意をするのが聞こえた。それが終わると、「さあ、いくらから始めましょう?それじゃあ、五十万ドルから始めましょうか?さあ、五十万ドル。五十万ドル、興味のある人はいませんか?あ、そこの紳士、五十万ドル。では五十五万ドルと言う人は?」と威勢のいい声で段々値段を吊り上げていく。家に興味を持ってくれている人は三人いることが分かった。中年のカップルとビジネスマン風の中年の男、子供二人を引き連れた家族。八十万ドルにいったところで、まず家族組が降りた。後残った中年のカップルとビジネスマン風の男。その二組が競り合っていたが、九十五万ドルでビジネスマン風の男が降りてしまった。すると、不動産屋は「売り主と相談しなければいけませんから、競売を一旦中断します」と、家の中に入ってきた。
「九十五万ドルまでいきましたが、どうします?」
私は少々弱気になってきていた。百万ドル未満でも、売らなければいけないかと思案していると、「百万ドル以下でば売らないよ」と後ろの方で声がした。振り返って見ると、声の主はロビンだった。私が返事をする前に、答えたのだ。
「そうですか。それじゃあ、もう一押ししてみます」と競売人はもう一度外に出たが、私には無駄な努力のように思えた。
「売り主は九十五万ドルでは売らないと言っていますので、また九十五万ドルから競売を開始します。九十五万五千ドル、いませんか?」
すると、今まで一度も手を上げたことがなかった若いカップルから手があがった。それから、その若いカップルと中年のカップルの競り合いが始まり、結局百万ドルで、若いカップルが買うことになった。あっけにとられている私に向かってロビンが、「だから最後まであきらめちゃいけないんだ」と言った。

著作権所有者:久保田満里子

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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