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百済の王子(27)

セーラは、朝鮮半島の情勢について知っている限りのことを正直に伝えることにした。

「私の知っている限り、朝鮮半島は二つの国に分かれています。北は朝鮮人民共和国と言って、ピョンヤンを首都とした独裁者の国です」

「独裁者の名前は何と言う?」

「確か、キム・ジョンウンと言う、まだ20代の青年です」

「何!キムと申すものか。さすれば、新羅の王朝は続いたのか」と、憤懣やるかたないように語気を強めた。

「さあ。私は朝鮮半島の歴史は余り知らないのですが、キムと言う苗字の人はたくさんいますよ」

「そうか。それでは、そのキム・ジョンウンが新羅王族の血筋の者かどうか分からないのだな」

「はい。私は知りません」

「で、南の国は、なんと申す?」

「大韓民国です。この国は私の国のオーストラリアと同じように、国民の選挙によって、支配者を決めています。首都はソウルと言います」

「そうか。それでは、百済は、千年後にはなくなってしまっていたのか」と、悲しげに言った。

「その朝鮮人民共和国や、大韓民国は、まだ倭国に貢物をしているのか」

「そんなもの、していませんよ。倭国は今は日本と言って、一時朝鮮半島を植民地にしたことがありますが、戦争に負けて、朝鮮半島は独立したんです。でも、その時、二つの国に分離されて、北朝鮮と韓国に分かれたんです。韓国は豊かな国ですが、北朝鮮は、いつも飢饉に襲われて、国民は苦しんでいると聞いたことがあります」

「唐の国はどうなっている?」

「唐ですか。唐は今は中国と言って、世界で一番人口の多い国になっています。世界で2番目に金持ちの国です」

「それでは、北朝鮮と韓国は中国にだけ貢物をしているのか」

「いいえ。中国は北朝鮮と仲がいいのですが、韓国とも取引をしています。私の住んでいた21世紀の世界では、どこかが他の国を属国にして貢物を請求するなんてことはないです。皆国は平等に扱われます。勿論金持ちの国はお金のない国をお金で買収して、自分達の都合の良いように支配しようとしているのは、この時代とは余り変わりませんが」

「今、そなた、中国が世界で2番目に金持ちだと言ったな。世界で一番金持ちなのは、どこの国なのだ」

「アメリカと言う国ですが、まだ今の時代にはできていない国です」

そう言うとセーラは、

「ちょっとお待ちください」と言って、自分の部屋に戻ると、自分の持って来たリュックサックの中身を取り出し、ノートとボールペンを見つけると、それを持って、 豊璋の部屋に引き返した。

「 豊璋様。21世紀の世界は、このようになっています」と言って、大体の大陸の形を書いて見せた。

「日本はここで、中国はここです。そして今お話したアメリカは、もっと遠いところ、ここにあります」と、ボールペンで、アメリカと英語で書き入れた。

セーラは、 豊璋に色々教えることに喜びを感じてはいたが、寝不足がたたって、1時間ばかりすると、ついついあくびをしてしまった。 豊璋は、そんなセーラを見て、苦笑いしながら、

「もう部屋に戻って休むがよい」と言った。

セーラは、また今夜も 豊璋に会えると思うと、

「それでは、のちほど、おめにかかります」と、嬉々として退出した。

その夜も 豊璋はセーラの部屋を訪れ、二人は愛の密会をもった。

 

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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