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前世療法(10)

第6章 三角関係

 「もしもし」と佐代子が電話に出ると、

「こんにちは。正二です」と、正二の声が聞こえて来た。先日初めて会ったのに、懐かしくていとおしい人の声を聞くような気分に陥った。

「あ、正二さん、今晩は」と言うと、

「佐代子さん、確か今日、前世療法のセッションに行ったんですよね」

「そうです。正二さんは?」

「ぼくも、佐代子さんの後にセッションを受けました」

「そうですか。どうでしたか?」と佐代子が聞くと、

「あなたは?話したいことがたくさんあるので、明日にでも会って、夕飯を食べながらでも、お互いに見たものを話し合いませんか?」

佐代子には異存はなかった。そこで、翌日に会うことを約束をして電話を切った。

彼の見た過去の自分は、私の見たトムと言う人物と同じだったのか。佐代子は、正二の見たものを知りたくて、翌日の夕方までの時間がゆっくりと流れていくのに、いらだちを感じた。

 待ち合わせ場所の、町中にある中華料理店には、佐代子の方が先についた。ウエイトレスがメニューを持ってきてくれたが、

「あとで連れが来ますから、注文はちょっと待ってもらえませんか」と言うと、ウエイトレスはすぐに引っ込んで、水の入ったグラスを持ってきてくれた。

メニューを見ていると、ほどなく正二が現れた。

「いやあ、お待たせ。出かけようと思ったら彼女から電話がかかってきて、ちょっと長電話になってしまってんだ。遅れてしまって、申し訳ない」

その言葉を聞いて、佐代子は正二には婚約者がいることを思い出した。

「彼女には、前世療法の話をしたの?」

「いや、話していないんだ。だって、君も同じ気持ちだろうけれど、僕はまだ完全に自分の見た過去生を信じたわけではないので、そんな不確実なことで婚約者を戸惑わせるのは悪いので、僕が確信するまで、何も言わないつもりだんだ」

そういっていると、ウエイトレスが、

「ご注文の料理、決まりましたか?」と聞きに来た。すると、正二はメニューに目を通したわけではないのに、すぐにすらすらと、

「春巻きに、牛肉のカキソース煮、チャーハンに、わさびチリソースのホタテガイをお願いします。それから、ウーロン茶」と注文をした。

佐代子が驚いて、

「よく、ここに来るんですか?」と聞いた。

「良くって言うほどではないけれど、月に一回くらい来るかな。ここのわさびチリソース、すごくおいしんだよ」と、笑いながら答えた。

「早速だけれど、君の見た前世の続き、聞かせてくれないかな」

そこで、佐代子が、自分の見た前世を話し始めた。

「私が待っていたのは、トムって言う恋人だったの」と言うと、正二は大きく目を見開いて

「え、その恋人って、トムって言うの?」と驚いた。

「どうして、そんなに驚くの?」

「実は、その時の過去生の僕の名前はトムって言うのが、先日の個人セッションで分かったんだよ」

今度は、佐代子が驚く番だった。

「じゃあ、トムの恋人の名前は何ていうのか分かったの?」

「うーん、それがハリオットとかサリーとかそんな感じの名前だったことしか覚えていないんだ。ともかく、君の話を続けてよ」

そこまで言って、正二は驚いたように、レストランの入り口を見た。

「どうしたの?」と、佐代子も振り返って入り口を見ると、こちらにまっすぐこちらに向かっている女性がいた。直感的に佐代子は、彼女がキムに違いないと思った。

著作権所有者:久保田満里子

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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