前世療法(11)
更新日: 2017-06-25
案の定、その女性はキムだった。キムは佐代子たちのテーブルに来ると、正二に向かって、
「最近、どうも私を避けているように思ったから、後をつけて来たら、浮気していたのね」と目を吊り上げて言う。
佐代子は突然の成り行きに、戸惑い、正二の方を見た。二人の女に見つめられて、正二は明らかに狼狽していた。佐代子は、余りの居心地の悪さに、すぐに自分が退散すべきだと思い、
「二人で話をして。私は一足先に退散させていただくわ」と席を立つと、正二はすまなそうに佐代子を見て、
「ごめん。また後で電話するよ」と、言った。
後ろを振り向くこともなくレストランを後にした佐代子は、「ああ、またもはずれか」と、がっかりしたが、深入りする前に婚約者が現れて良かったと、自分を慰めた。
家に帰っても、むしゃくしゃするだけだ。すぐに、玲子に電話をかけた。
玲子は、佐代子が正二とデートをするのを知っていたので、電話に出て来るなり、
「デート、うまくいかなかったの?」と言った。
「どうして、そんなことが分かったの?」
「だって、デートがうまくいったら、こんなに早くは電話くれないでしょ」
「ご名答。そうなんだ。レストランに婚約者が現れてね、私は退散したって言うわけ。これから家に帰っても、気がくさくさするだけだから、玲子と晩御飯食べるのもいいかなあって思って電話したの」
「なんだ。落ち込んでいる人のお相手をするなんて、御免蒙りたいわ」
「そんなこと言わないで。ご馳走するからさ」
「え、ご馳走してくれるの」と途端に元気を取り戻した玲子の声が聞こえ、
「今、どこにいるの?じゃあ、今から出かけるから、そこで待ってて。今日は高級料理をご馳走してもらうから、覚悟しておいてね」と言うと、電話が切れた。
玲子を待っている間、「どうして、こんなに落ち込むのかしら。先週会ったばかりの人なのに、私はもうあの人が運命の人のように思い込んでいる。いつものあなたらしくないわよ」と佐代子は自嘲気味につぶやいた。
著作権所有者:久保田満里子