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おもとさん世界を駆け巡る(16)

おもとさんは、家にフレデリックの知人が、出資したお金を返してほしいと訪れるようになって、初めてフレデリックが知人からお金を借りまくっているのを知った。その時は、めまいに襲われ、寝込んでしまった。頼りにしていた夫が、知人を詐欺にかけたことになる。フレデリックは、押しかけた出資者に「今はうまくいっていないが、そのうち利子をたくさんつけて返すから」と言い逃れをしていたが、ある日、出資者の一人が横浜にあるオランダ領事館のブラーテ領事に訴えたため、領事が警護の者をを連れて家に乗り込んできて、フレデリックを詐欺の容疑で逮捕してしまった。フレデリックを逮捕した後、家に証拠物件がないかとどの部屋も家探しされ、おもとさんは、やっと床上げをしたのが、また寝込んでしまった。そのおもとさんの周りを警護の者たちが情け容赦なく、うち中の物をひっくり返して行った。その家探しでフレデリックが幕府から1万3千2百8十3ドル(現在の2千5百万円に相当する)を借り受けている証文が見つかり、フレデリックは窮地に立たされた。この一万三千ドル余りは、どうしてフレデリックの手に渡ったかと言うと、第二使節団で使用するためのお金をフレデリック名義でロンドンに送っていたことが原因であった。使節団は一時フランスの軍艦を買う予定だったが、適当な軍艦がなかったので買うのを諦めた。その使節団が使わなかったお金をフレデリックは、ネコババしたのである。 
 フレデリックは逮捕された後、英国領事館にある監獄に入れられてしまった。
 フレデリックが当分家には帰ってこれないという現実を目の当たりにしたおもとさんは、自分と子供たちの先行きに不安を抱き、今は寝込んでいる時ではないと、すぐに実家に事情を説明するために出かけた。実家では父親の長兵衛はすでに隠居の身で、兄の角兵衛が店を取り仕切っていた。角兵衛は、おもとさんが外人と結婚したことを苦々しく思っているのをおもとさんは知っていた。だから、本当は実家に助けを求めるようなことをしたくなかったのだが、ほかに頼りすべがなかった。


著作権所有者:久保田満里子

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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