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ある企業家の死(1)

日本にある三流週刊誌XXの記者、藤沢加奈は、編集長から言われて佐伯信二をインタビューすることになった。加奈にとっては、佐伯信二と言う名前は初耳だったが、ネットで調べたところ、今年77歳になる不動産会社、金融業、酒類販売と幅広く手掛けている会社社長ということだった。しかし、佐伯の写真を見たところ、60歳と言っても誰も疑うものがいないくらい若ぶりに見えた。若さを保つために佐伯は涙ぐましい努力をしているのだろうと加奈は思った。加奈は、佐伯に聞きたい質問項目を書き出してみた。
(1)    どのようにして会社を立ち上げたのか?
(2)    若さを保つための秘訣は何か?
(3)    家族のこと
(4)    生きがいは何か
佐伯が話好きであったなら、これだけ聞けば、2ページの紙面は埋まるだろうと予想を立てた。いくつもの会社を経営しているというからには、物静かな男だとは思えない。
アポを取り付け、佐伯に会いに行ったのは5月中旬の五月晴れの日だった。佐伯から自宅に来てくれと言われたので、自宅に行くと、自宅は予想通りいかにもお金持ちの豪邸と言う感じの大きな門構えをした家だった。どっしりした木造の門をくぐると大きな日本庭園があり、家まで続く飛び石を踏みしめながら、庭とは対照的なモダンな2階建ての鉄筋コンクリートの家の玄関の前に立った。呼び鈴を押すと、女の声がインターフォンを通して聞こえた。
「どなたあ?」
「週刊XXの藤沢というものですが、今日佐伯さんにお会いすることになっているのですが」と言うと、すぐに玄関が開けられ、日本的な美人だがふくよかな感じの50歳代の女が出てきた。
「社長から、藤沢さんのことは聞いています。お入りください」と、加奈をすぐに家に入れてくれた。
 その女は身なりもきちんとしていたので「奥様でいらっしゃいますか?」と聞くと、その女はおかしそうに笑いながら、「いいえ、家政婦ですよ」というので、慌てて「失礼しました」と加奈は謝ったが、女は奥さんに間違われたことに対して、不快には思っていないようで、笑みをたたえたままだった。
 玄関から入ってすぐ右手にある部屋に通されたが、そこには、ネットで見た写真と同じ顔をしている男と、20代の若い女が待っていた。女はファッション雑誌から飛び出したようなブランド物を身に着け、モデルのようにほっそりしていて、目が大きくて髪を肩まで伸ばした現代美人だった。多分佐伯の娘だろうと加奈は思った。
「私、お電話しました、週刊XXの藤沢加奈と申します」と言って名刺を渡すと、「僕が佐伯です。そして、これが妻の沙由紀です」と隣に座っていた若い女を紹介したので、加奈はびっくりしてしまった。
 佐伯は加奈の驚いた顔を楽しむようににやにやしながら、
「まあ、おかけください」とソファに座るように勧めてくれた。
「妻が若いので驚いておいでのようだが、僕たちは50歳の年齢差があるんですよ」と佐伯は自慢そうに言った。
(続く)

著作権所有者:くぼた

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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