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人探し(2)

正雄が思い浮かぶ理由は、正雄は両親に似ていないことである。正雄の両親は両方とも面長なのに、正雄は四角張った顔だった。おまけに眉毛が濃く、目鼻が大きかった。唇も分厚い。どちらかといえば、南洋の島から来たような容貌だ。それに対して、顔全体が小づくりで面長な両親とは違っているので、よく他人から、「あなたたち、本当に親子なの?」と疑いの目を持って、見られることがあった。でも、まさか、正雄は、自分の両親が他人だっただなんて思ったことはなかった。父親はA型で、母親はAB型だった。だから、正雄がA型なのは、不思議でもなんでもなかった。大学教授の父も専業主婦の母も、正雄を大事に育ててくれた。正雄には姉がいるが、両親にとっては、初めての男の子だったので可愛がられた。
 正雄は、まず、この藤沢と言う男に会って、詳しく話を聞きたいと言う衝動に襲われた。幸いにも1か月後はオーストラリアは夏休みムードに入り、正雄は1か月の休暇を取って、日本に帰り、実家で、クリスマスと正月を過ごすことになっている。その時にこの男に会ってみようと、決心した。もしも自分の思い違いだったら、両親に嫌な思いをさせることになる。だから、自分が本当にこの藤沢聡と言う人物と入れ替えられたという決定的な証拠が揃うまで、両親には何も言わないことにした。それにしても、自分達の非を認めようとはしない病院に対して、強い憤りを関した。僕だったら、病院を訴えてやると思った。多分、正雄が20代の時にオーストラリアの大学に留学して来て、オーストラリア人のようなものの考え方をするせいかもしれないが、どうして聡の母親は病院を訴えなかったのかと、歯がゆく思った。とにかく、この藤沢に連絡を取ろうと、正雄は、何と言おうかと、文章を考え考え書いて、次のようなメールを送った。
「藤沢聡さん、
僕は坂田正雄と言います。僕は、あなたと同じ日にあなたと同じ病院で生まれました。おまけに僕はA型です。両親と顔が似ていないのが、子供のころから不思議でならなかったのですが、僕があなたと病院で取り違えられたとすると、僕が不思議だと思っていたことの謎が解けます。でも、あなたと僕が取り違えられたと言う、確証を得たいです。
 僕は今オーストラリアに住んでいますが来月20日には東京に帰りますので、その時会って、詳しく聞かせていただけませんか?
 僕も、自分の実母と思われる人に早く会いたいのですが、もしも間違っていたら、僕の両親にも、あなたのお母さんにも嫌な思いをさせることになるので、僕は確証を得るまで、家族には知らせないつもりです。あなたも、まだお母さんには何も言わないでください。
 僕は日本には12月20日から1月15日までいますから、その間に会えそうな日と時間、そして場所を指定下さい   坂田正雄」
送信ボタンを押した後、正雄はどんな返事が来るか、恐ろしいような、待ち遠しいようなそんな気持ちになった。だから、送信した後すぐにベッドに潜ったのだが、あれこれ考えると、目がさえて眠れなかった。自分の実の母親って、どんな人だろう?僕と同じように角ばった顔の人だろうか?美人だろうか?優しい人だろうか?想像がどんどん膨らんでいく。それでも、いつの間にか眠った。

著作権所有者:久保田満里子

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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