人探し(8)
更新日: 2019-01-22
次の約束の日まで、正雄はほとんど家にいた。どこかふらふらと遊びに出る気持ちにはなれなかったのだ。今の間、母に甘えておきたいと言う気持ちがあった。自分が実子でないと分かった時、両親から拒絶されるかもしれない。その心構えもしておかなければいけない。そう思うと、家族と過ごす時間が貴重に思えたからだ。一つだけ正雄がしたことは、高校時代からの友人五十嵐昇に電話をしたことだ。いつも帰国した時には会っている友達だったが、今回は赤ん坊取り違えに関する法律の情報を聞くのが目的だったため、電話する前は少し緊張した。
「昇。俺、正雄」
「やあ、正雄。いつ日本に戻って来たんだ?最近連絡がないので、いつ戻って来るのか分からなかったよ」
「ごめんごめん。クリスマス前のオーストラリアって忙しくてね。ついつい連絡しないで帰ってきてしまった。12月20日に戻って来たんだ。ところで、相談したいことがあるんだけれど、ちょっと、会えないかな?」
「ううん。今はちょっと忙しくて会えないな。正月すぎたら時間があるけれど。そうだ。正月の二日にうちに来いよ。和子もきっと喜ぶよ。君のオーストラリアの話って面白いっていつも言っているよ」
「ううん。実は相談したいことって僕一人のことじゃないので、もう一人会ってほしい人物がいるんだけれど」
「なんだ。新しい恋人でもできたのか。嫌にもったいぶるなあ。だったら、その女性も連れて来いよ」と笑いながら言う五十嵐に、
「いや、もう一人の人物って男なんだ。それに相談したことって色恋沙汰のことじゃないんだ。昇の弁護士としてのお知恵を拝借したいと思ってね」
「なんだ。深刻なことなのか。弁護士として会いたいと言うのなら、たんまり報酬を払ってもらうよ」と冗談めかしに五十嵐は言った。
「ともかく話だけ聞いてほしいんだ」
「そうか。じゃあ外で会った方がいいな。XXホテルのラウンジと言うのはどうだ。あそこなら、ゆっくり話せるし、コーヒーだけならたいしてお金もかからない」
「そうしてくれるとありがたいな。1月2日でいいかな」
「うん。正雄のためだ。1月2日の午後2時に会うことにしよう」
「ありがたい。それじゃあ、1月2日午後2時に」
電話を切った後、正雄はひと仕事終えたような疲れを覚えた。
著作権所有者:久保田満里子
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