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ある雨の夜に(4)

幸太郎は、ミアが成仏してくれればいいのだがと思いつつ、それからすぐに家族が寝静まった家に帰り、すぐに眠りについた。
 翌朝は、敏江の「キャー」という叫び声で、幸太郎はいっぺんに目が覚めた。
「何だ。どうした!」
 幸太郎が慌てて、敏江の声のする方に行くと、敏江は聖子の部屋の前で腰を抜かして座りこんでいた。
「どうしたんだ!」と言って、敏江の指さす方を見ると、そこには首を吊ったパジャマ姿の聖子が見えた。
 幸太郎は驚くとともに、聖子の首から早くひもを外してやらなければと、あわてて聖子を抱き上げてひもをはずし、聖子を床に横たえると、敏江に「早く、救急車を呼べ!」と怒鳴りつけ、自分は聖子の体にまたがって、人工呼吸をし始めた。人工呼吸の仕方は、いつかテレビで見ただけだったが、見よう見まねでした。思い切り息を吸って聖子の口を大きく開け、自分の肺の空気が空っぽになるまで息を吹き込んだ。そして、聖子の胸を両手で全体重をかけて押した。息を吹き込む、胸を押す。1,2,3,4とリズミカルに何度も何度も繰り返した。息を吹き込むたびに、聖子が目を開けて息を吹き返すのではないかと期待するのだが、半眼になった聖子の目はあきそうもなかった。ともかく無我夢中だったので、どのくらいの時間が経ったか分からない。いつの間にか救急隊員が幸太郎の傍に立っていて、「もう、いいですよ」と言う声が幸太郎の耳に入った。幸太郎は救急隊員が人工呼吸を代わってくれるのかと思い、聖子の傍に体を退けたが、救急隊員は、聖子の脈を診、瞳孔を調べただけで、「ご臨終です」と言った。幸太郎は自分の努力が無に帰したことを知り、呆然とした。敏江が聖子の遺体に取りすがって泣いているのが見えた。それから警察が来て、鑑識が来て、聖子の遺体を運び出したが、幸太郎には遠い国で起こった出来事のようで現実感がなかった。警官も「あと、気を取り直されたら、事情聴取をしたいので、ご協力ください」と言って、聖子の部屋に遺書がないかと調べ始めた。遺書は机の上にきちんと置かれていた。
「遺書を見せてください」と幸太郎は警官に強く言った。自分は聖子の親なのだ。聖子の遺書は自分が最初に読むべきだと思ったのだ。ひったくるように、警官から遺書を取ると、幸太郎は遺書を読み始めて驚愕した。遺書には、次のようなことが書いてあったのだ。
(続く)

著作権所有者:久保田満里子

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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