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夫の秘密(3)

探偵は、感情を押し殺した抑揚のない声で、報告を続けた。
「そうです。お相手は男性、それも20代後半から30代前半くらいの年齢のカルロと言うフィリピン人です」
写真に写っていたのは、色の浅黒い、顔が整っていてハンサムだが目が鋭くて抜け目のなさそうな若い男だった。
相手が女だとばかり思っていた希子は、トムがバイセクシュアルだったと言う事実にショックを受け、しばらく声が出せなかった。しばらくして、質問をした。
「どうして、知り合ったのか、分かりましたか?」
「オンラインの出会いサイトで見つけたようです」
「何をしている人なんですか?」
「それがよく分からないんですよ。相手のことを詳しく調べるにはフィリピンに行くのが一番いいのですが」
手数料さえ払えば、この探偵はすぐにでもフィリピンに行きそうな気配だった。
「フィリッピン人と言うと、高額所得者でないと、オーストラリアにそんなに毎年遊びに来るなんてできないでしょうに」
コロンボのような探偵は苦笑いしながら、
「勿論旅費や滞在費は全部ご主人が支払いしています。そしてオーストラリア国内をかなり二人で旅行をしていますね」と言って、二人がシドニーハーバーブリッジを見ている写真や、キャンベラの議事堂に行っている写真を封筒から取り出して、見せてくれた。希子の頭は憤りでかっかとしてきた。
「それと、もう一つご報告しておいた方がいいと思いますが、この若者、ご主人がスポンサーになってオーストラリアの永住権も取得しています」
「それじゃあ、いつオーストラリアに移り住むか分からない状態なんですね」
「そうです」
希子の頭に、去年ビクトリア州で同性婚が認められたことが、浮かんできた。トムは私が死ねば、この男と結婚するつもりなんだわと思うと、悔し涙が出てきた。
探偵は依頼者が取り乱すのには慣れっこになっているようで、黙って希子が落ち着くのを待った。
希子がやっと涙を拭きとって、顔を上げると、無表情の探偵は、
「これからも何か調査を続けましょうか?」と聞いてきた。
「いいえ。いいです。もしまた何か調べてほしいことができたら、こちらから連絡します」
「そうですか。それでは、その時はよろしく」と言って、探偵は帰っていった。

ちょさk

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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