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夫の秘密(4)

探偵が帰って、トムが会社から戻って来るまで、希子の心は乱れに乱れた。相手がオーストラリアに住む女なら、実際に会いに行って、一年のうち1か月だけを一緒に過ごす愛人の立場をしっかり認識させ、別れさせるつもりでいた。ところが相手は外国に住む男。トムは一言もこの男のことを言ったことがないが、2重の生活を楽しんでいるのに違いない。それにしても、旅費も割り勘にできるくらいの経済力のある男と付き合えばいいのに、自分たちの家計費から、この男が遊ぶお金を払ってやっているなんて、許せない。自分がお金のことに疎くて、トムに全面的にお金の管理を任せていたのがまずかった。それに永住権も取っているなんて。自分達二人だけの住処だと思っていた家が、他人も入り込んでいたことなる。それも腹立たしい。全てが腹立たしかった。希子は、トムが帰って来たら、どういって迎えたらいいのか。希子は悩みに悩み抜いたが、結論を出せないまま、トムが帰宅した。しかしその夕方会社から帰って来たトムは様子がおかしかった。うつむいたまま一言も口を聞かず、浮かぬ顔をして、仏頂面の希子の顔をまともに見ようとはせず、おざなりに頬にキスをして、寝室に服を着替えに行った。
さては、希子がすべてを知ったと気づいたのかと思ったが、それにしても、様子がおかしい。この様子では、向こうから自分の二重生活を告白してくるかもしれない。それを聞いてから、こちらもどうでるか考えればよいと、希子は腹をくくった。
 トムの告白は、夕食を食べている途中に始まった。黙ったまま口に食べ物を運んでいたトムは、突然手に持っていたフォークとナイフをテーブルに置くと、いきなり頭を下げた。
「希子。ごめん。僕は君に隠れて浮気をしていたんだ。許してくれ」
相手から告白されるとは思わなかった希子は、戸惑いを感じて、しばらく黙っていたが、静かな声で、まだ頭を下げているトムに向かって言った。
「知っているわ。フィリピン人の男なんでしょ。その浮気の相手って言うのは」
そう言うと、トムは驚きで顔を上げて、まじまじと希子を見た。
「どうして知っているんだ?」
「私が日本から帰ってくると家の様子が違っているんだもの。それにあんな派手なパンツを買うなんて、浮気しているのは見え見えよ。だから探偵に調査してもらったのよ」
トムはため息をつきながら、弱弱しく言った。
「そうか。そこまで知っているのなら、一から説明する必要はないな。実はカロスがこの度体調を崩してフィリピンに帰ったんだ。そして病院に行って検査してもらった結果、エイズにかかっているのが分かったんだ」
「え、エイズ。じゃあ、あなたもエイズに感染しているってわけ?」
「まだ分からない。だから明日検査しに行こうと思うんだ。僕がエイズったら、希子だってエイズにかかっている可能性があるよ。だから、明日一緒に病院に検査しに行こうよ」
余りのことの展開に、希子の頭がついていけなくなった。
「どうして、こんなことになるの?」
夫の浮気のとばっちりを受けて、なんで私までエイズにかかる羽目に陥るの?そんなの不公平だ。希子は心の中で、トムを罵倒していた。

ちょさk

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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