Logo for novels

熱血母ちゃん(2)

勉強し始めてしばらくすると、お父ちゃんが良太の部屋に入って来た。
「良太、九九が覚えられなくて、晩飯抜きだってな」
 お父ちゃんは良太に同情したが、何しろお父ちゃんもお母ちゃんには頭が上がらない。
「お父ちゃん、どこにいるの?」とお母ちゃんの声が階下から聞こえると、「今、行く」と言って、お父ちゃんは一言良太に「頑張れよ」と言って肩をたたき、部屋を出て行った。
 良太が、九九を全部覚えられた時は、9時半を過ぎていたが、お母ちゃんの前で、全部九九が言えたので、その晩はかろうじて、晩飯抜きを免れた。
 翌朝、お母ちゃんは「今日は保護者の役員会があるから、学校に行かなきゃいけないから、一緒に出掛けよう」と、言った。それを聞くと、良太は、同級生に見られたら、からかわれるのを知っていたので、渋い顔をした。「なによ、その顔は」とお母ちゃんが言うので、
「だって、お母ちゃん、知らない子でも怒り飛ばすでしょ。だから皆から良太のお母ちゃんは熱血母ちゃんだって、からかわれるんだよ」
「熱血母ちゃんで、何が悪い?お母ちゃんは、いっぺんだって、間違ったことを言ったことはないよ」
 良太は、お母ちゃんの言うことはもっともだと思うけれど、相手と場所をわきまえていってもらいたいものだと、心の中で思った。それにお母ちゃんを煙たがっているのは、良太だけではないことを知っていた。いつか、じいじとばあば、つまりお母ちゃんの両親に、
「来週の日曜日運動会があるから、応援に来てよ」と言ったら、「良太、来週の日曜日は用事があって、行かれないよ。すまないね」と、即座にばあばに断られた。その晩、ばあばのうちに泊まったのだが、良太が寝たと思ったのか、ばあばがじいじに話している声が聞こえた。
「良太の運動会には行ってやりたいけれど、正子の母親だと知られると恥ずかしくて仕方ないから、行かないと言っちゃったけれど、かわいそうなことをしたね」
だから、良太は、ばあばもお母ちゃんの事を恥ずかしがっていることを知っている。

ちょさ

 

コメント

関連記事

最新記事

カレンダー

<  2024-05  >
      01 02 03 04
05 06 07 08 09 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  

プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

記事一覧

マイカテゴリー