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陽気な美容師(最終回)

木曜日
「今お帰りになったお客さんは、お知り合いなんですか?それじゃあ、お隣の席に座っていただいたらよかったですね。え?嫌いな人だから、顔を隠して、知らないふりをしていたんですか?アハハ。確かにあのお客様は身勝手な人なので、時々私も腹が立つこともありますよ。この間も、ご自分が予約の時間を間違えてきたのに、来た時間にやってくれないとおかんむりだったことがありますけれど、困りますよねえ。お客様も被害にあわれたことがあるんですか?ああ、確かに、あの方の話は他人の悪口ばかりですよね。いいことを聞いたことがありません。ご主人の取引先の会社の人の奥さんなんですか?それじゃあ、お付き合いしないというわけには、いきませんね。
 今日は、お友達の息子さんのパーティーに行かれるんですか?着物をお召しになるんですか?
それでは、髪をアップにしましょうか?それでは、アップにしますね。
私なんて、オーストラリアはパーティをよくすると聞いていたので、日本からロングドレスを何着か持ってきましたが、パーティーと言っても普通カジュアルなので、ほとんど着るチャンスがありませんでしたねえ。友達の結婚式のときくらいですねえ、ロングドレスを着たのは。先日ポーランド人の友達の息子さんが、ユダヤ人の女性と結婚したので、結婚式に招待されましたけど、結婚式って、国によって違った風習があって、おもしろいですよね。ポーランドでは、花嫁が真珠の装身具をつけていたら、真珠の装身具をつけて参列した人は、自分の身につけた真珠を花嫁にあげなくてはいけないという習慣があるんだそうですよ。そうそう、その結婚式では、花婿が袋に入ったシャンパーンの瓶を踏みつけて壊したのでびっくりしましたが、ユダヤ人の結婚式では、そういう習慣があるんだそうですね」
「私の結婚式ですか?そう言えば、結婚式のことで初めて喧嘩したのを憶えていますよ。日本では、結婚式の費用は、花婿が払うでしょ?だから私もてっきり彼が払ってくれるのだとばかり思っていたら、こちらでは花嫁が払うのが普通だと言われて、大喧嘩しました。もう結婚するのをやめようかと思ったくらいですよ。今の若い人達は、誰が費用を払うかにこだわらないのでしょうけど」
「さあ、出来上がりました。奥様、うなじがとてもおきれいですね。きっとお着物、お似合いでしょうねえ。今晩のパーティー、楽しんできてください。ありがとうございました」

ちょさk

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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