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木曜島の潜水夫(13)

トミーは、弟を失った悲しみが消えないまま1939年の正月を迎えたが、1月に初めての子が生まれた。女の子だった。トミーは中井甚平にその娘の名付け親になってくれるように頼んだ。中井は色々考えたあげく、その娘に「珠代」と言う名前を付けた。「珠」は真珠を表し、「代」は永遠にと言う意味が込められていると中井から説明を受け、真珠貝の潜水夫の娘にふさわしい名前だと、トミーは喜んだ。子供が生まれてからは、借家住まいを切り上げたい、早く自分たちの家が欲しいと思うようになったトミーは、ジョセフィーンの実家の隣に、家を建てることにした。トミーは、休みの日には、トミーの船で働いていた中村康夫と松村公男達に手伝ってもらい、仕事の合間をぬって新築の家を建てて行った。中村も松村もよくトミーのうちに出入りし、珠代を可愛がってくれ、家族ぐるみの付き合いだった。珠代の1歳の誕生日は自分達の家で祝いたいというのがトミーの願いだったが、翌年の初めに新築の家が完成した。珠代の一歳の誕生日までに小さいながらも自分の家を完成させることが出来た。
 珠代の一歳の誕生日パーティーは盛大に行われた。トミーの潜水夫仲間は勿論のこと、ジョセフィーンの親戚縁者など大勢がトミーの家に集まった。和洋折衷の誕生日パーティーで、バースデーケーキは餅で、大きな餅の上に、キャンドルが一本灯された。よちよち歩きの珠代は目も丸くて愛らしく、色々な人に抱かれ、キャッキャッと、嬉しそうに笑って、ご機嫌だった。パーティーの締めくくりとして、ジョセフィーンに抱かれた珠代を囲んでハッピーバースデーの歌が歌われ、庭中に響いた。その後、参加者には皆祝いの餅が配られた。トミーは目に入れてもいたくないほど珠代が可愛く、珠代の一挙一動を目を細めて見ていた。子供が生まれてからは、一家の働き手としての自覚が強くなり、大酒を飲まなくなり、賭け事もやめて、家庭を一番に考える、良き父、良き夫となった。

ちょさk

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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