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木曜島の潜水夫(34)

  トミーはエスケープ川とポセッション島との往復で忙しかったが、暇を見つけて、木曜島の家族の元に帰っていった。島ではジョセフィーンと子供たちがトミーの帰りを待ち詫びていたからだ。
トミーの船にはひょろっと痩せて背の高い中年の島人の乗組員がいた。やせていたのでスリムと呼ばれたが、スリムはよくカメを捕まえたり、マンゴーを木から取って食べていた。トミーはスリムにマンゴーの取り方や、カメの卵の見つけ方などを教えてもらって、島の人が食べる伝統的な食べ物を抵抗なく食べるようになっていた。カメの卵は美味で、カメを見かけると、船を止めて、皆でカメの卵を集めて食べた。
トミーがカメの卵がいかにうまいか家族に説明すると、皆嫌な顔をしたが、マンゴーの取り方がうまくなったのは、歓迎された。 
エスケープ川には真珠の移植のため、若い技術者が15人ほど日本から送られてきていたが、英語を話せる者がいないので、トミーは彼らの通訳となり、いろんな相談にのったりして、技術者の間で頼られる存在になった。彼らは10日働いた後5日の休暇を取ったが、皆酒好きで、休暇にはウイスキーを買って、パーテイーを毎晩のようにした。何しろほかに楽しめるようなものはなかったのだから、そうなるのは自然の成り行きだった。そのパーティーには、同じ会社で働いていた40人の島人も加わり、皆分け隔てなく島人とも付き合った。
トミーの楽しみの一つは、日本の雑誌を読むことだった。日本の会社から日本人の社員のために日本の雑誌が送られて来るので、社員が読み終わった後雑誌をもらって、日本の新しい文化の風にあたることができた。
もう一つの楽しみは、日本の短波放送を聞くことだった。エスケープ川にはトミーの寝泊まりする部屋があったが、トミーは夜になると、いつも日本の短波放送を聞いていた。船に乗る時も胸のポケットにトランジスターラジオを入れて、日本の音楽を楽しんだ。トミーは、ジョセフィーンの言うように、オーストラリア国籍をとっても、根本的なところでは、日本人だった。

ちょさ

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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