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隣人(3)

翌日から、私はアロンの様子を観察したが、アロンはいつもと様子が変わらなかった。いつものように、ふてくされた顔をしてご飯を食べ、食べ終わると、無言ですぐに家を出て行った。テレビの朝のニュースでは、アーサー夫妻の殺人の話で持ちきりだった。シャロンのインタビューも30秒と短かったものの放映された。
「アーサーとビビアンは、ナイフでめったきりにされ、顔も判別できないほどに残酷な殺され方だったということです。また、警察によりますと、無理やり外部から侵入した形跡は見当たらず、顔見知りの犯行かと思われます」
「顔見知りの犯行か…」私は思わずつぶやいた。自分の息子のことを信じたいが、最近アロンのことを私は全く理解できなくなっていた。だから、もしかしたらという思いが、頭について離れなかった。アーサーに最後に怒鳴り込まれた日、アロンを警察に引き取りに行った帰りに、アーサーのことを話したら、「あの野郎、いつも俺を悪者にする。あんな奴なんて、死んじまえばいいんだ!」と悪態をついていたアロン。アロンに殺意が全くないとは言えない。アーサーたちが殺されたことを知った時も、「あんな奴いなくなってせいせいしたよ」と、晴れ晴れとした顔をしていたアロン。「まさか、あんたが殺したんじゃないでしょうね」と何度も口からでかかったが、その後の反応を考えると恐ろしくて、その言葉を飲み込んだ。
毎日アロンを観察したが、いつもの様子と変わりなかったが、私の疑惑はなくならなかった。
 事件が起こって1週間後、また夜勤明けで家に帰る途中、2軒先の家から、ジョージが警官に囲まれて出てくるのを見たとき、私はハッと息を飲み込んだ。ジョージにとりすがりながらシャロンが必死に何か言っている様子が車から見えた。
「ジョージが犯人だったのね。アロンではなかったんだ」と思うと、安堵で思わず顔がほころんだ。しかし、すぐにその安堵は悲しみに変わった。
「かわいそうなシャロン」
私は、シャロンの嘆きを思うと、喜んでばかりはいられなかった。
警察がジョージを連れ去ったあと、呆然とただずんでいるシャロンの肩を、私は後ろから抱いた。
「大丈夫?」
そう言うと、振り返ったシャロンは疲れきった顔をして、
「どうしてなの?どうして、ジョージがあの二人を殺さなければいけなかったの?」と私に聞いた。親のシャロンでさえ分からないのなら、私に分かるはずがない。
私は悲しげに首を横に振った。
「私も分からないわ。第一、ジョージが殺したなんて、考えられないわ」
私の答えを聞いたのか聞かなかったのか、突然シャロンは断言するように言った。
「一週間前といえば、ジョージの友達のジョンが来ていたわ。ジョンにそそのかされたに違いないわ」
その顔は、わらにでもしがみつきたい気持ちがみなぎっていた。
ジョンは、ジョージのバンド仲間である。私もジョンが時折ジョージと一緒にいるのを見かけたことがある。しかし、すぐにジョンを犯人扱いにするのは、私にもシャロンが親馬鹿だとしか思えなかった。

ちょさ

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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