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行方不明(11)

州立図書館は堂々とした石造りの建物で、古いギリシャの神殿を思わせた。メルボルンはシドニーと違ってイギリス風の古い建物が多く、オーストラリアがイギリスの植民地であったことを思い起こさせる。建物の中は改装されていてモダンな感じだが、天井が高くひんやりとした空気が流れていた。外の暑さと喧騒とは別世界に思えた。図書館の検索用のコンピュータで、キーワードとして「森」を入れてみた。見る見るうちに何万と言う本があることが分かり、手がつけられそうにもなかったので絵に限ってみることにした。すると、1026と少なくなり、色んな森の絵が出て来た。食い入るようにしてどんどん見ていったが、どれも似たり寄ったりに見えた。途中で目が痛くなり一休みしようとした時、閉館のお知らせがあったので、その日は諦めて帰ることにした。

帰ると留守電にジョンからのメッセージが入っていた。「帰ったら電話してくれ。」と言う短いメッセージだった。

静子はすぐに電話したものかどうか迷ったが、森のことを聞きたい気持ちが勝った。電話をすると、

「ちょっと、話したいことがあるんだけど、今晩行ってもいいかな?」と聞く。

「いいわ。私も聞きたいことがあるの」

「じゃあ、7時半ごろそちらに行くよ。」

「じゃあ、夕食でも作っておきましょうか」

「いや、食べていくから、いいよ」と言って、ジョンの電話は切れた。

それから、ありあわせの物で夕食をすませて、ジョンが来るのを待った。

7時半にテレビのニュースが終わり、そろそろジョンが来る頃だと思ったが、来ない。静子が良く見るテレビ番組の「7時半のレポート」が終わって8時になってもジョンは来なかった。すると、またトニーが失踪したときのことを思い出して、不安が横切った。ジョンの携帯に電話を入れたが、返事はなかった。9時になるといてもたってもいられなくなった。電話が鳴ったのは、9時半ごろであった。飛びつくように電話に出た。

「ジョン?」

しかし、知らない男の声が返ってきた。

「静子さんですか?」

「そうですけど」

「ジョン・ウイーバーの父親のジョージ・ウイーバーと言いますが、実はジョンは交通事故にあって、重態で今ロイヤルメルボルン病院にいるんです。ジョンから静子さんのことを聞いていましたからお知らせしたほうがいいと思って、電話しているんですが。」

「ええ!交通事故?ロイヤルメルボルン病院ですね?すぐ行きます。」

そのままハンドバックを持って車に飛び乗り、病院へ駆けつけた。

病院の受付で「ジョン・ウイーバーさんに会いたいんですが。」と言うと、ジョンに似た白髪の紳士が近づいてきた。

「静子さんですね?」

「そうです。ジョンのお父さんですか?」と聞くと、白髪の紳士は黙ってうなづいた。

「ジョンの容態はどうですか?」

「たった今息を引き取りました。」と言うと、ジョージ・ウイーバーはうつむいた。

それを聞くと静子は目の前が真っ暗になるのを感じた。自分を愛してくれた男が二人とも自分の前から消えていくなんて信じられなかった。

著作権所有者:久保田満里子

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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