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EMR(27)

「一体、どうなっているんだ?」
 マークが、ニールの疑問に答えた。
「ハリーは、君の心が読めるんだよ。だから、隠そうたって無駄だよ」
「じゃあ、あんたは人の心を読む超能力者って言うわけか?」
 ニールは、薄気味悪そうにハリーをじろじろ見ながら言った。
 ハリーはマークが答える前に口を挟んだ。
「そういう事にしておきましょう」
 ハリーはEMRのことを余り公表したくないのだ。ましてや、テロリストの組織に関わっている者に知られると、ろくでもないことに使われそうな気がしたのだ。
 マークもハリーの気持ちを察したのか、次の質問に移っていった。
「もう一度、聞く。ムハマドは明日の何時に空港を爆破するつもりなんだ?」
「そこまでは、分からない」
 これは正直な答えだった。もう、嘘をついても仕方がないと観念したようだった。
「じゃあ、ムハマドがどこにいるのか分からないのか」
「俺はそれほどムハマドに信頼されているわけではないからな」
「どうして、ムハマドと知り合ったんだ?」
「以前スパイ容疑で密告された男に金をもらって、目こぼしをしたことがあるんだ。その男に紹介された」
「どうして、そんなことをしたんだ?」
「どうして?俺ももうすぐで六十歳だ。そろそろ退職したいと思っても、今の退職年金では、貧乏暮らししかできない。だから金が欲しかったんだよ」
「じゃあ、『ジーンズ・オンリー』の店に乗り込むのも、我々がリリーデールの公園の物置小屋に乗り込むのも、事前にムハマドに知らせたのは、お前だったんだな」
「そうだ」とニールは小さな声で、答えた。
「ムハマドとそれじゃあ、連絡はとれるんだな?」
 黙って、ニールは頷いた。
「じゃあ、ムハマドを呼び寄せろ」
「いやだと言ったら?」
「刑務所にいる期間が長くなるだけだ。刑務所でお前さんが元警官だと分かったら、他の囚人から嫌われるだろうなあ」
 マークは椅子から立ち上がると、ニールの後ろに立ち、ニールの肩に両手をかけて、脅すように言った。
 ニールはそれを聞くと、自分の今の状況をはっきりと把握したようだ。力なく言った。
「協力するよ。その代わり、裁判では寛大に扱ってもらえるように、配慮してくれ」
「いいだろう。勿論、裁判の結果がどうなるかまでは、僕達にも分からないがね。できるだけ情状酌量してもらえるようにすることを約束するよ」
「ムハマドに、どう言えばいいんだ?」
 マークは腕時計に目をやった。
「空港の警戒を強化することになったが、その時の警官の配置図が手に入った。その配置図を売りたいので、会わないかと言ってみたら、どうだ?」
「そんなことを言うと、どうしてターゲットが空港だと分かったのか、不思議に思うだろう?どう説明すればいいんだ?」
「お前さんもハリーの超能力をみただろう?ハリーに見通されたとでも言えよ」
「そんなこと、馬鹿げているって信用しないよ」
「それじゃあ、どっかからタレ込みがあったらしいとでも言え」
 今まで抵抗を見せていたニールが黙ったので、ニールが同意したものとして、マークは話を続けた。
「もう四時過ぎだな。六時にでも、州議事堂の前で会おうといってみてくれ。州議事堂だと、見張りやすい。あそこは石段が何段もあって、石段を遮るものは街灯だけだ。ウィンザーホテルの喫茶室がちょうど州議事堂の真向かいにあるから、そこから望遠鏡で監視できる」
「もし、拒否されたら?」
 ニールはまだ不安がっている。
「拒否されたら拒否された時のことだ。やってみなければ、わからないだろ?」
 マークに諭されて、やっとニールはムハマドに電話をかける気になったようだ。ニールがおもむろにポケットから携帯を取り出すと、携帯にはヘッドフォンが取り付けられ、マークも相手の言うことが聞けるように設置した。録音装置も取り付けられると、ニールは、携帯のボタンをゆっくり押した。3回ほど呼び鈴がなって、「ムハマド」と男の声が答えた。
「ニールだ。お前さんにとって役に立ちそうな物が手に入ったんだが、一万ドルで買わないか?」
「役に立ちそうな物って何だ?」
「どうやら誰かからお前さんのターゲットが空港だとタレこみがあったらしい。そこで空港の警備が強化されることになって、警官の配置図が配られた。興味はないか?」
「なに?どうして俺達のターゲットが空港だと分かったんだ?」
「タレこみがあったらしい」
 急に相手は黙り込んだ。この状況の変化にどう対処すればいいのか、考えているようである。

著作権所有者:久保田満里子







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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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