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私のソウルメイト(11)

私は次の日、2時ごろロビンの家に行ってみた。相変わらず通りは静かで、時おり車が通るくらいで、人影はなかった。2時からずっと運転席に座って、ロビンの家の人の出入りを監視した。2時半ごろ、郵便配達がスクーターに乗ってやってきて、ロビンの家の郵便受けに、封筒を何通か入れた。そして、また人影が絶えた。3時半ごろ、ロビンの家の隣から、4人ばかりの着飾った白人の中年の女性が出てきた。そのうちの一人はロビンの隣の住民らしい。他の3人の女性がかわるがわる彼女の両ほほにキスしては「バーイ」と言っては、それぞれ車に乗って帰って行くのが見えた。きっとポーカーか何かトランプ遊びでもしたのだろう。何かの雑誌の記事で、お金持ちの奥さんたちがすることの一つにトランプ遊びがあるというのを読んだことがある。私はそのまま4時半まで監視を続け、ロビンの家には人の出入りはなかったことを確認して、家に帰った。
 京子には、その翌週カフェで会って、このことを報告した。
「結局、彼のことは何にも分からなかったわ」
「でも、彼が独身だとわかったら、あんた、どうするつもり?アーロンと離婚して彼と結婚するつもりなの」と京子から聞かれた。
「よく分からない。ただ、彼といると胸がときめくのよ。そんな胸のときめきをもう一度味わいたいと思うのは、いけないことなのかしらね」
「まあ、あなたがただ彼に対してロマンチックな気持ちを持つのは、悪いことじゃないわよ。そんな気持ちを持てるというだけで、羨ましいと思っているんだから」
「そうね。私もまさか40過ぎて、こんな気持ちをもてるなんて思わなかったわよ。だから、私は時々彼は私の運命の人かしらと思うの」
「それ、韓流ドラマの見すぎじゃないの。運命の人なんて、いるはずないじゃないの。いるとすれば、あなたの運命の人って、アーロンに決まってるじゃない」
「そうだよね。20年も一緒にいる人なんだからね」
私は、アーロンのことを持ち出されると、ロビンに対する気持ちが混乱してしまう。アーロンがいやになって、ロビンに心が惹かれたというのなら、自分でも納得する。しかし、アーロンは空気のような存在になっているとは言え、夫として、たいして不満をもっているわけではなかったのだから。
その晩の夕食のとき、ダイアナが「ねえ、お父さんとお母さん。死んだ時のお葬式では、どんな音楽を流してほしい?」と聞いた。
突然のダイアナの質問に驚いて、すぐには返事ができなかった。
「えっ?私まだ死なないわよ。どうしてそんなこと聞くの?」と言う私に、
「勿論まだ死んでほしくないけれど、念のために聞いておいたほうがいいかなと思って」と言う。
「そうね、私はスティングのevery breath you takeがいいな」
「そんな歌、薄気味悪いから、やめてよ」
「どうして? いいラブソングじゃない」
「いつでもどこでもあなたのことを見ているなんて、ストーカーみたいじゃない。それに死んでもお母さんが私につきまとっていると思うと、薄気味悪いわよ」
「そういえば、ストーカーの歌と言う見方もできるわね」と言いながら、ロビンの家を監視している自分が、ストーカーになりさがっていることに気づいた。
 日本への出張から帰って来て、1ヶ月が過ぎようとしていた。ロビンとは日本から帰って連絡が途絶えていた。自分ひとりが一方的に彼を思っている愚かさをだんだんと悟るようになって来た。しかし急に襲ってくる胸が締め付けられるような切ない思いをどうしようもなかった。


著作権所有者:久保田満里子

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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