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百済の王子(4)

~~セーラも近くに寄ってみて、その人々が異様な姿をしているのに、気づいた。先頭にいる女性は長い髪を後ろに束ね、高松塚古墳で見た壁画の女性と同じような衣服を身につけているのだ。セーラは一瞬ぎょっとして立ち止まったが、今日、きっと仮装するイベントでもあったのだろうと思い直し、また近づいて行った。セーラがその集団の先頭の女性と1メートルの間隔しかないところまで来ると、その女性の後ろにいた男がその女性を守るように前に出てきて、「何者だ!」と声をはりあげ、セーラを牽制した。
その男の格好も異様だった。上半身は裃の上着を着て、膝上までのズボンをはいているのだ。ズボンと言うより、ニッカーボッカといったほうがいいかもしれない。髪の方も変わっていた。まるで、侍のような髪型をしているのだ。その男がセーラに向かって、
「何者だ!それ以上近づくな!」と血相を変えて叫んだ。
セーラは思い切り走ったために息が苦しく、すぐには声は出なかったが、呼吸を整えて言った。
「私、道を迷ったんです。天武天皇陵は、どこですか?」
その男は、セーラの言っていることが理解できないようだった。
「天武天皇?それは何者だ?」
「何者って聞かれても私もよく分からないけれど。じゃあ、この地図見て、私がどこにいるか教えてくれませんか?」とセーラは手に持っていた地図をその男に見せた。その男は紙自体を珍しいものを見るように、手にとった。後ろにいる女性も好奇心に満ちた顔でセーラを見ている。何でこんなものが珍しいのだろうと、セーラのほうも不思議に思った。
「今日、何かのイベントがあるんですか?それで、そんな格好をしているんですか?」セーラは無邪気に聞いてみた。すると、その男は
「イベント?なんのことだ?」と、言葉が通じない。
「そなたは、どうしてそんな格好をしている?」今度は男のほうがセーラに聞く。
「そなたなんて、時代物の言葉遣いをするなんて、随分こっていますね」と、クスクスと笑った。
すると、後ろにいた女性が言った。
「おもしろそうなおなごじゃ。屋敷に連れて参って、問いただしてみよう。お前たち、この者をとらえよ」と言うと、側にいた3人の男がみんなセーラを取り囲んで、セーラのリュックサックを奪い取ると、後ろ手にして、縄でしばりあげた。
「What are you doing?(何してるの?)」セーラは余りにも驚いたせいか、とっさに英語が口をついて出た。
「何をおかしなことを言っているのじゃ」と、ますます男たちはセーラを怪しみ、セーラをひったてる力が乱暴になった。その時、初めてセーラは自分がとんでもないところに紛れ込んでしまったのに気づいた。
「もしかしたら、これ、昔の日本にタイムスリップしたのかしら?」
それからセーラの抗議もむなしく、セーラはその女の屋敷に引っ立てられて行った。

著作権所有者:久保田満里子
 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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