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イギリスから来た日本画(1)

 イギリス人の夫シェーンと一緒に、イギリスに、シェーンの父親、ダレンの葬式に行った時の事である。葬式を済ませた後、ロンドン郊外にあるシェーンの友人の家を訪れたとき、客間に飾られた日本画を見て、私は思わず目を見張った。その絵は、ダレンからもらった絵と、そっくりだったからである。横10センチ、縦20センチばかりの短冊に描かれた小さな絵である。少し胸元が赤っぽい青い鳥が一羽、赤く色づいたモミジの木の枝に止まっている。背景は上部はうすい茜色で夕焼けのように見え、そして下に行くにしたがって徐々に淡い青色と変わり、その青色も下に行くほど暗くなり、一番下の部分は紺色に描かれている。その紺色の部分には白い菊が闇の中にぽっかり浮かんだように描かれている。構図といい、色といい、ダレンがくれた絵と同じ画家が描いたとしか思えない。ダレンがその絵をくれたとき、
「僕には絵の良さなんてちっとも分からないから、この絵が値打ちのあるものかどうか見当はつかないんだけれど、この絵が古いものだっていうことだけは保証できるよ。この絵は僕のおじいさんの家の客間に飾ってあったんだから、百年以上も前の物だよ」と言った。
「この絵を描いた人の名前、わかりますか?」
という私の質問には、
「さあ、ここに印が押してあるから、これをみれば分かるんじゃないか」と言った。確かに、朱肉のようなもので押したハンコの跡がある。
しかしそのハンコはあまりにも小さくて、私には解読することができなかった。値打ちは分からないものの、日本からイギリスにわたり、そしてオーストラリアに住む日本人の私の元に来たというのに、私は深い因縁を感じた。だからもう薄汚れていたその絵を修繕してもらい高い額縁を買って、オーストラリアにある我が家の客間に飾った。それも随分前のことなので、近頃では、その絵の存在さえも忘れていた。
 その絵と同じ構図の物をイギリスに来て見たのである。それもダレンのお葬式のすぐ後で。
「この絵は、どこで買われたんですか?」
シェーンの友達のトムは、私の質問に驚いたようだったが、すぐに笑顔で答えてくれた。
「これはね、うちのひい爺さんが、ロンドン日本人村で買ったと聞いているよ」
「ロンドン日本人村?それって、何ですか?」
「さあ、僕もよくは知らないけれど、そこにいた画工が描いたものをうちのひい爺さんが気に入って買ったということだよ」
シェーンはそれを聞くと、私に、
「さあさあ、調べ物が好きな香織さん。オーストラリアに帰ったらすることができたじゃないか。よかったな」と揶揄するように言った。
私は、「私はそんなに暇人じゃありませんよ」と少しむくれながら答えたが、心の中で「よし、ロンドン日本人村っていうのを調べてみよう」と乗り気になっていた。

ちょさk

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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