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恐怖の一週間(4)

  翌朝は、ぐっすり寝たため、起きたときはすっきりした気分になり、恐怖感もなくなっていた。
 嫌な夢も見なかったし、よかったなと起き上がって、パジャマを着替えようと思った私は、パジャマを脱ぎかけて、パジャマの袖を見て、ぎょっとなった。血が飛び散ったように小さな点になった血痕が10センチ四方についているのである。きのうは、血痕がついていたのは布団カバーで、自分と直接接触のないものだったが、パジャマは自分が身に着けていたものだ。そこにまで血痕がつくなんて、一体どうなっているのだろう。私は呪われているのだ。そう確信した。すると、麗子には助けを求めたくないと心にかけていたブレーキが一気にはずれてしまった。すぐにでも麗子に電話してしたいところを、今日お店で会ったときに話せばいいんだからと、我慢をした。
 その朝土産物屋で麗子を見かけると、「ちょっと、聞いてほしいことがあるんだけれど」と、麗子をロッカー室の片隅に呼んだ。
「何かあったの?」
麗子が心配そうに私の顔を覗き込む。
「実は、きのうから私の周りに奇妙なことが起こって、こわくなったの」
「奇妙なことって?」
「布団かけに血痕がついていたり、パジャマの袖に血が飛び散っていたりして」
麗子の顔に恐怖が広がった。
「その家で、誰か殺されたことがあったんじゃない?そんなこと、聞いたことない?」
「私は別なことが原因だと思うんだけれど」
「何か心当たりがあるの?」
「うん」
 私は、自分の口から中絶の経験があるとは言いたくなかった。麗子が察してくれるかと思ったが、麗子は、そのまま私が言葉を続けるのを待っている。
仕方なく私は重い口を開いた。
「私、昔中絶したことがあるのよ」
「それ、ご主人とのお子さん?」
この女、なんて察しが悪いのだろうと、腹立たしくなった。どうして私がダンとの間にできた子を中絶するのだろう。
「違うわ」
そう答える私の声は、かなりぶっきらぼうになっていた。
そこまで言うと、麗子はやっと事態を理解したようだ。
「それって、水子のたたりって言うわけね」
「そうだと思う。だって、おととい、その子の夢を見たんだもの」
「そうなの」
麗子は大きくうなづくと、
「私、水木先生に連絡して、お払いをしてもらうようにお願いするわ。何時にお宅に行ったらいい?」
やっぱり、水木先生とやらに来てもらわなければいけないようだ。
「7時半に来てもらえるかしら」
そういうと、麗子は
「ええ、いいわ。水木先生ってすごいんだから、心配しないで。前にも有名なレストランのオーナーが死んだあと、そのレストランに幽霊になって出てくるって、評判になったことがあったけれど、水木先生がお払いするといっぺんで出てこなくなったのよ」
麗子はうれしそうに言った。2日前の私なら、なんて馬鹿なことを麗子は言うのだろうと笑っただろうが、そのときはもう笑えなかった。
麗子が請け負ってくれたので、私の気分は随分軽くなり、その日は客の接待に専念できた。
夕方店を出るとき、麗子から
「じゃあ、今晩7時半に」と、言われ、家に急いで帰った。

ちょ

 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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