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スーパーウーマン(最終回)

「ハリソン、起きてよ。何だか玄関の所に誰かいるみたいよ」と、私がハリソンをゆすり起こすと、ハリソンも眠たげな眼をこすりながら起きて、耳を澄ませた。すると、ガチャーンと大きな音がしたかと思うと、人がどやどや入ってきた気配がした。
「泥棒じゃない?」と言うと、ハリソンは、恐る恐るベッドのそばにあったゴルフクラブを手に持って、声のする方に行った。突然の物音で、カイリーは目が覚めたようで、カイリーの部屋から、カイリーの火が付いたような泣き声が聞こえた。私は母性本能にスイッチが入り、カイリーの部屋に駆けつけた。すると、玄関の方で、ハリソンと乱入者が渡り合っている物音が聞こえた。カイリーを守らなければいけない。それには乱入者を撃退しなければと思い、カイリーをベビーベットに残すと、玄関にかけつけた。壊されて開けっ放しになっていた玄関の扉の前では、三人のマスクをした男たちがハリソンとやり合っていた。ハリソンは死に物狂いにゴルフクラブを振り回している。すると一人の男がするりとハリソンのそばを抜けて、ハリソンの後ろに回り、持っていたハンマーで、ハリソンの頭を殴ろうとしている光景が目に入った。私は夢中で後ろからその男のすねを蹴った。すると、その男は後ろを振り返り、私に向かってきた。怖かった。しかし私の体は自然に動いて、その男の股間を思い切り蹴り上げていた。その男は呻いて崩れ落ち、痛みに耐えかねたようで股間を抑えて、のたうち回った。ハリソンにゴルフクラブで追いまくられていた二人の男は、仲間が倒されたのを見て、逃げ始めた。その二人を追って行こうとするハリソンを私は呼び止めた。
「一人、捕まえたから、あとの二人も捕まえられるわよ。ともかく、警察に電話して」と言うと、ハリソンは、倒れている男を見て、「その男、久美子が倒したの?」とびっくりした声をあげた。
私はハリソンに、倒れた男を縛り上げ、警察に電話するように頼むと、まだ泣いているカイリーを抱き上げ、カイリーをあやした。
カイリーがやっと寝付いた20分後に、警官が二人来た。
捕まえた男を引き渡すと、警官は「この男を奥さんが倒したんですか?」と信じられないように、私を見た。警官が驚くのも無理はない。私は身長が150センチと日本人としても小柄なのに対して、捕まえた男は痩せているとはいえ、180センチくらいの背の高い男だったのだ。
マスクをはがして見ると、まだ17歳か18歳くらいの黒人の男の子だった。
「奥さん、お手柄でしたね。こいつはこの近辺を荒らしているエイペックギャングの一味なんですよ。なかなか現場を取り押さえることができなくて、苦労していたんです」と年上の警官が言った。
「え、エイペックギャング?あのスーダンから来た難民の子供達で作っていると言われている?」
「そうです。いやあ、スーダンから来た難民にも善良な市民がたくさんいるんですが、一部のこういった不良グループのために、スーダン人に対する偏見がますます強くなるって、スーダンのコミュニティーの人は嘆いていますよ」
「そうなんですか」
警官が犯人を連れて引き上げた後、私は体が震え始めた。恐怖が今頃になって私を襲ったのだ。あの時、カイリーを守らなくてはと言う思いで、一心不乱だった。震えている私の体を抱いて、「久美子、もう大丈夫だよ」とハリソンが背中をさすりながら言ってくれた。
私はその晩、アキにメールを送った。
「アキ、あなたのおかげで強盗を撃退することができました。ありがとう」
すると、アキからすぐに返事が来た。
「すごいね、久美子。少林寺拳法が、あなたの家族を守るために役立ったなんて、私もとっても嬉しいです」
その翌日の新聞に、「日本人女性、強盗を撃退」と写真付きで記事が載った時は気恥ずかしかったが、ハリソンはその記事を読んだ後、「これで、この家は強盗に狙われなくてすむね」とにっこり笑った。
すると、カイリーの部屋から泣き声が聞こえた。
「はい、はい、今行きますよ」と久美子が立ち上がると、ハリソンが言った。
「スーパーウーマンの久美子にも勝てない人がいるね」
「それって、誰のこと?」とけげんな顔をして聞くと、
「それは、カイリーだよ」と言って、ハリソンは幸せそうに笑った。

フィクションです。

著作権所有者:久保田満里子






 

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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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