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私のソウルメイト(13)

 クリスマスの次の日のボクシングデーは、我が家では毎年デパートの安売りに出かけて、5割引とか6割引の洋服や食器やシーツなどを買いあさるのが行事になっている。今年もアーロンと二人で出かけて、一年分の下着類やワイシャツや靴下、ストッキングなどを人ごみにもまれながら買い占めた。しかし、どこにでかけても、常に私の心の片隅にロビンが住み着いていた。食器を見ながらも、視線は半分人ごみを見ている。もしかしたら、ロビンに会えるのではないかと、はかない望みをかかえながら。しかし、どこに視線を移しても、ロビンの姿は見えなかった。私の心の中には大きな穴が空いて、ロビンに会いたいと思う気持ちが日増しに強くなっていった。
 クリスマスの休暇は1月1日まであり、うちにはアーロンとダイアナがいた。だから、一人でふらふらロビンの家に行くことはできなかった。人が傍にいてもさびしいということをこのとき知った。私は、することもなく、アーロンの両親がくれた「前世療法」の本を手にとって見た。最初気乗りのしなかったこの本に、私は、読み始めると、ぐんぐん引き込まれてしまった。筆者のブライアン・ワイズ博士は精神科医。その本には次のようなことが書かれていた。ワイズ博士が水恐怖症の女性に退行催眠をかけたところ、彼女が水恐怖症の原因を作った前世を思い出したというものだ。その前世ではその女性は、洪水に襲われ、水に押し流されて死んでしまい、その時の水に対する恐怖感が潜在意識に残っていて、今でも水がこわくてたまらないのだという。それが分かったところで、水に対する恐怖がぴたっとなくなってしまったというのだ。前世はある、という話自体は、仏教の輪廻を信じていた私には大して衝撃的なことではなかったが、その本に書いてあったソウルメイトがいると言う話は、衝撃的なことだった。私がこんなにもロビンにひかれるのは、彼が私のソウルメイトだからだろうか。そう考え始めると、私はその晩眠れなかった。一体ロビンは私にとって、どういう意味がある人なのだろうか。仏教では袖振り合うも他生の縁というではないか。私は冷静にどうして彼にこうも惹かれるのか、考えてみた。彼は大会社の社長でお金も権力もある人だ。だから、彼に惹かれるのだろうか。でも、世の中には彼よりもお金や権力を持っている人はわんさといる。今までそんな人たちに心を惹かれたことは全然ない。反対に、お金や権力に振り回される人を軽蔑してきたのではないか。外貌からすると、客観的に見てアーロンのほうがよっぽど魅力がある。私は前世で彼と会ったことがあるのだろうか。今のところ、私の思いは片側通行で、ロビンの気持ちは全然分からない。彼に会いたいと心底から思った後、すぐに彼とソウルメイトだったと考えるのも荒唐無稽だという思いがいつも襲ってくる。私の心はその二つの感情の流れに揺らいでいたのだ。
 私はどうしても今の私の気持ちを聞いてもらいたくて、1月2日にアーロンが出勤した後、京子と町のカフェで待ち合わせをした。
「ねえ、ソウルメイトっていると思う?」と私が切り出すと、京子はびっくりしたように、
「急に、何の話?」
「いえね、クリスマスのプレゼントにアーロンの両親から『前世療法』という本をもらったの。それによると、人間は何度も生まれ変わってくるのだけれど、いつも一緒に生きる縁の深い人がいるというのよ。それをソウルメイトと言って、普通、親子とか夫婦とか、兄弟とか、それに親友と言った形で現れてくるんだそうだけれど。最近ロビンのことを考えることが多くて。一体どうして私は彼に惹かれるんだろうかと思っていたので、その本を読んで、彼は私のソウルメイトなのではないかと思い始めたのよ」
「なんだか、ニューエイジの人みたいなことをいうのね」
「ニューエイジって何?」
「特別な宗教は信じないけれど、宇宙には法則があって、それが神だと思っている人たちよ。その人たち、輪廻転生はあるって信じているみたいよ。私のバイト先にもそういう人がいるわ」
「ふーん」
「ソウルメイトと言えば、その人が貸してくれた本に、面白い話が載っていたわ。愛妻家で有名だった人が、ある日パーティーで出会った女性に夢中になってしまったんだって。そこで、離婚されそうになった奥さんが自殺しかけて、その人は離婚をあきらめたそうなんだけど、その人、どうしてその女性にそんなにもひきつけられるのか分からなくて、精神科医のもとを訪れたんだって」
「もしかしたら、その精神科医、退行催眠をその人にしたんじゃない?」
「えっ?その本、もとこさんも読んだことがあるの?」
「ううん。実は私が読んだ前世療法と言うのが退行催眠を使って、水恐怖症の人を治療した話なので、その精神科医も退行催眠をつかったんじゃないかと思ったの。もしかして、それ、ブライアン・ワイズっていう人が書いた本じゃない?」
「作者はよく覚えていないわ」
「それで、どんなことが分かったの?」

著作権所有者:久保田満里子


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プロフィール

2008年よりメルボルンを舞台にした小説の執筆を始める。2009年7月よりヴィクトリア日本クラブのニュースレターにも短編を発表している。 2012年3月「短編小説集 オーストラリア メルボルン発」をブイツーソリューション、星雲社より出版。amazon.co.jpで、好評発売中。

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